ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「オネエ・ビジネス」を取り上げる。

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 今年もひとつよろしくお願いいたします。人気者に付いて回るものと言えば『疑惑』です。昨年も様々な疑惑とその真相、そして顛末にざわついた一年でした。不正、不倫、薬物といった『お咎め』の対象となり得る疑惑から、何も悪いことはしていないのに何故か疑惑扱いされるカツラ、整形、同性愛まで。隠せば隠すほど疑惑を持たれ暴かれるのは、間違いなく人気者の証しです。私が人気者かどうかは別にして、私のように「一般的には隠しておきたいとされる事柄」も、割と詳らかにしている人種というのは、「暴き甲斐」がないと見做され、スキャンダル価値が低くなります。私がすっぴん・部屋着姿を撮られたとしても、本人的にさほどダメージを受けないのであれば、それはスクープとしての値打ちがないのです。

 私にとって『どうしても隠さなければならない秘密』など果たしてあるのでしょうか。つくづく神秘性に乏しいつまらないタレントだと痛感する毎日なのですが、先日、『ミッツ・マングローブの疑惑?』なる記事を見つけました。カツラも被れば、ちょっとした整形もする、同性愛者の私に、今さら何の疑惑が? もしかして脱税? あんなに払ってるのに? 驚くなかれ、私にかけられた疑惑とは、なんと『ビジネス・オネエ疑惑』。要は、商売の便宜上『オネエ・同性愛者』と偽っているということ。なるほど。仮に私が『ビジネス・オネエ』だとしたら、なかなか手の込んだ芝居を上手に繰り広げるエンタテイナーであり、かつそれなりの利益を上げている優秀なビジネスマンです。トウの立った女装家なんてものより、よっぽど面白みがあるかもしれません。

 
 ただ、その記事が示した『ミッツのビジネス・オネエ説を裏付ける真相』に脱力してしまいました。なんでも、何人かのオネエタレントを取材したことがあるという週刊誌の男性編集者の証言によると、「マツコや楽しんごには、取材中にボディータッチが多いなどドキドキさせられたが、ミッツは(男性編集者に対する)セクハラまがいの行為が一切なかった。故に、ミッツは『オネエを演じている』と思った」とのこと……。敢えて媒体名は書きませんが、よほどネタがなくて困っていたのでしょう。何故か私が申し訳ない気持ちになってきます。今後は、どんなに不細工で仕事のできなさそうな男性編集者にも、「かわいいわね」と股間のひとつも触るように心がけます。『ビジネス・オネエ』ならば、そこは是が非でも徹底しなければならないところです。

 ノンケ男性にとって、ゲイやオカマに色目を使われ、「やべえ! 喰われる!」と恐怖心を抱くことは、ひとつのステータスなのでしょうか。たかだか一度や二度、それもリップサービスで「お兄さんかわいいわね」と言われただけで、「俺、結構あっち系の人にモテるんすよ」などと得意げにほざく男をごまんと見てきました。この際だから言っておきますが、ゲイやオカマは、この世で最も好みにうるさい生き物です。ちなみに「セクハラしてこないオカマは偽物」という発想は、「オスは誰しも性の対象にセクハラをする」と言っているのと同じことです。結局、隙あらば触りたい・触られたいのがオス。ならば私のような『超敏腕ビジネス・オネエ』にも口説かれるぐらいイイ男になるべく、今年も精進されてください。

週刊朝日 2017年1月20日号