ラジオ・マスターズ
ラジオ・マスターズ
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強力ラジオ・マスター音源、初心者に最適、春のピクニックのお供にどうぞ
Radio Masters (Cool Jazz)

 ラジオ放送のコピーもしくは放送前の音源がCD化されることは珍しくないが、この『ラジオ・マスターズ』はちょっと変わっている。まず冒頭、いきなり女性アナウンサーの声が流れてきて、「チャルケル・パルケル(Charlie Parker)」とかおっしゃっているわけです。まあ簡単なマイルスの歩みを紹介しているのでしょう。ところが妙なタイミングで今度は男性アナウンサーが登場、なにやら喋っているわけですが、女性アナと掛け合いするでなし、互いに勝手に喋っている風情がなんともイタリヤンで奇妙なのです。

 最初の約1分間は、贅沢にも《イン・サ・サイレント・ウェイ》をBGMに上記のようなお喋りタイムとなり、いよいよ演奏突入となるわけですが、なるほどこれがマスターということなのでしょう、えらく音がいい。おそらくこれは番組をコピーしたようなレヴェルではなく、オリジナルがソースなのでしょう。ただし《ミー・アンド・ユー》は《ミー・アンド・ユー》というよりは《イントルーダー》の変形のような演奏、かなりベニー・リートヴェルドのベース・ソロがフィーチャーされている。いつもなら「長いぞー」と野次のひとつも飛ばしたくなるところだが、これだけ音がいいと快感を呼び、「まあいいだろう」と大人の態度をとらせてくれる。

 夜霧よ今夜も《ヒューマン・ネイチャー》をありがとう。またしても意味不明のタイミングで男性アナの喋りが3秒ほどかぶさるが、まあしかしこれだけ音のいい《ヒューマン・ネイチャー》、久しぶりに聴かせてもらいました。マイルスが宅配業者と化して哀愁を各戸に配達、それを受け取ったケニー・ギャレットがアルト・サックスでジワジワとにじりよっていく激情の展開は、年に数回のペースで聴くかぎり、ホントーにすばらしい。思わず『ライヴ・イヴィル』のゲイリー・バーツかと突っ込みたくなるほどの青筋吹奏が頼もしく、愛おしく、「もっといけ!いけ!」とその気になっている自分がキラー・コワルスキーでございます。

 必殺の《TUTU》はアタマの"ダンッ"がなく、いきなりマイルスのソロから投下という編集。もちろんアタマ欠けは痛恨の極みだが、マイルスのソロはうまく気を逸らし、気がついたときには演奏のど真ん中に身を沈めているという見事な攻撃。マイルスにつづいて飛び出すフォーリーのシーツ・オブ・サウンドがじつにもってコーフン、そして最後は例のアレというわけで、初心者に最適のブツだと思います。

【収録曲一覧】
1 In A Silent Way-Intruder
2 Me And You (incomplete)
3 Human Nature
4 Tutu (incomplete)
5 Time After Time

Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (ss, as, fl) Foley (lead-b) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Benny Reitveld (elb) Ricky Wellman (ds) Marilyn Mazur (per)

1988/7/24 (Italy)