安部龍太郎(あべ・りゅうたろう)/1955年、福岡県生まれ。久留米高専卒業。90年、『血の日本史』でデビュー。2013年、『等伯』で第148回直木賞を受賞。著作に『信長燃ゆ』など多数(撮影/写真部・長谷川唯)
安部龍太郎(あべ・りゅうたろう)/1955年、福岡県生まれ。久留米高専卒業。90年、『血の日本史』でデビュー。2013年、『等伯』で第148回直木賞を受賞。著作に『信長燃ゆ』など多数(撮影/写真部・長谷川唯)
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井伊裕子(いい・ひろこ)/1968年、滋賀県彦根市生まれ。井伊家17代当主直豪の長女。愛知県で育つ。彦根市の市史編さん室に勤め、結婚を機に退職。2015年から彦根城博物館協議会委員(撮影/写真部・長谷川唯)
井伊裕子(いい・ひろこ)/1968年、滋賀県彦根市生まれ。井伊家17代当主直豪の長女。愛知県で育つ。彦根市の市史編さん室に勤め、結婚を機に退職。2015年から彦根城博物館協議会委員(撮影/写真部・長谷川唯)

 戦国時代、女性ながらに事実上の当主として井伊家を守った直虎。NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で取り上げられ注目されているなか、直虎の小説を書いた直木賞作家の安部龍太郎氏と、井伊家17代当主の長女、裕子さんが対談した。

安部:今度の大河ドラマは、どういうふうになるか不思議ですね。天正10(1582)年、本能寺の変の起きたすぐあとくらいに直虎は亡くなってしまっているわけですから。どこをどう描くのか。

井伊:直虎自身があちらこちらに戦争に行くわけでもないですしね。井伊谷の小さい範囲でしか行動していません。最後は、直政がこんなにがんばって家康に取り立てられました、というシーンで終わるのですかね。

安部:3分の1くらいそっち(直政のがんばり)を描かないと、大河ドラマの一年は、もたないのではないかと(笑)。

井伊:そうかもしれませんね(笑)。それに、直政役の俳優、菅田(将暉)くんがイケメンですから、たくさん出てこないと、みんなもおもしろくないですしね。

安部:それは、出番が多くなりそうです。直政の話にもっていかざるをえないのでは(笑)。

井伊:直虎役の柴咲コウさんは意志が強くてしっかりしている感じでイメージどおりですね。

安部:強い女性で頭が良くて。決断するところは決断する肝の太さもありますからね。

井伊:賢くてもカミソリみたいなキレ者といったイメージではないですね。というのも、家康に謁見するときに着る直政の小袖を縫ってあげたという話がわが家に伝わっています。心優しい面も持ち合わせていたのではないかと思っています。大河ではどのような直虎が描かれるのか楽しみです。でも、視聴率が悪かったらどうしよう、とも(笑)。

安部:やっぱり気になりますよね。ご先祖様に申し訳ないって(笑)。

井伊:そうなんです。視聴率がすべてだとは思いませんが、やっぱり悪いと寂しいかなぁって。

安部:僕は家康を書いている取材の過程で直虎のことを知りましたが、大河ドラマになると知ったときは、本当にびっくりしました。全国各地に「なんとか大河ドラマに」と思っている人が多いなかで、ふっとダークホースのように飛び出してきたなって印象です。ただ、直虎を主人公にしたら、家康は、いい人間に描かれる。それはうれしい(笑)。

井伊:そうですね。直虎・直政は「家康さまさま」ですからね。

安部:戦乱の世を勇ましく、苦難の中を生き抜いていく女性の強さの源はなんなのか。家に対する責任感なのか。亡くなった許婚に対する気持ちなのか。父親に対する思いなのか。そんなところを、主演の柴咲コウさんにはうまく演じてほしいなと思っています。

井伊:私は、どうしてほしいというより、どうなるのかなという不安もありますが(苦笑)。ただ、地に足をつけて時代を見据えてしっかり生きていったというように描いてもらえるとうれしいなと思います。(構成 書籍編集部・大田原恵実)

週刊朝日 2017年1月20日号より抜粋