漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、「FNS歌謡祭」第1夜(フジテレビ系12月7日19:00~)に出演した長渕剛が披露した「乾杯」を考察する。
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歌番組のクライマックス。
「この時代だから届けたい、新しい『乾杯』がある」。そして、長渕剛はおもむろにアコースティックギターのボディを、ポコポコポコと叩き始めた。やおら絶叫。「う~んまいっ!!」。あれ、もう乾杯のビール飲んじゃった?かと思いきや、それどころじゃない。ギターをジャカジャカかき鳴らして、うなり出す。「アメリカの大統領が誰になろうとも~♪」って、これ何ひとつ「乾杯」じゃない。
いきなりの大統領選に続き、「正義のツラして知ったかぶりしてる」マスメディアを批判。それから「歌の安売り」をやめろと、脈絡なく展開する長渕ワールド。思わず浮かんだ単語は「ギター漫談」。しかしオチがないまま続く説教だけに、むしろこれは新手の「ギター侍」か。長渕斬りか。
聴けば聴くほど、語尾がひょいっと上がるこの歌いっぷり。だんだん「ジャガーが赤ん坊の頃にさぁ♪」なノリに思えてくる。そう、最近深夜バラエティーでおなじみ、千葉県が生んだローカルスーパースター、ジャガーさんだ。長渕節、いつのまにかほぼほぼジャガーさん? いかつい武闘派・長渕が、ビジュアル系金髪おじいちゃんにシンクロするなんて、宇宙の神秘か。本人が真剣であればあるほど、ズレが生み出されるシュールな空気だ。
さらに被災地応援から、名もない兵士まで話は飛び、「屈辱の血ヘド」を吐いたところで、やっと本題「乾杯」開始。ここまですでに3分45秒。いくらなんでも長すぎだろう、「乾杯」の音頭。てか、結婚式で血ヘド吐くのやめて。
思えば2008年、清原和博の引退セレモニーでも、ギター一本で「とんぼ」を歌っていた長渕。号泣する清原の周囲をぐるぐるしながら、「ワンモアターイム」つって、全然歌が終わらない。ジャカジャカ「いやーおっ」て叫ぶこと約8分。キヨの涙も乾いてたわ。
長すぎて、何がなんだかわからなくなる祝辞のような長渕節。いつかあの番組に呼ばれるはず。「絶対に笑ってはいけない長渕剛」
※週刊朝日 2016年12月30日号