肝臓がんには手術やラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法といった根治的治療がある。肝臓の領域では出遅れていた放射線治療も技術が進歩し、大きながんを消滅・縮小させるなど、治療の選択肢となってきた。
通常がんの3大治療といえば手術、抗がん剤治療、放射線治療だ。しかし肝臓がんの場合、手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法となっていて、放射線治療が含まれていない。
筑波大学病院陽子線治療センター部長の櫻井英幸医師が解説する。
「肝臓は放射線感受性が高い。つまりダメージも受けやすい臓器です。治療に必要な線量を照射すると正常な組織が傷ついてしまうため、肝臓がんでは放射線は根治的な治療でなく、症状緩和の場面などで使われてきました」
肝臓内のがんは呼吸とともに動くため、ピンポイントで照射することは難しかった。しかし近年、大幅に改善された。
「エックス線治療機器の進歩は目覚ましいものがあります。息を吐き終えたタイミングを待ち伏せして照射する技術や、ターゲットを追尾して照射することも可能になりました。またエックス線を集めてピンポイントで照射する定位照射の技術によって、必要な線量を無駄なく腫瘍にあてることができるようになりました」(櫻井医師)
現在は、5センチまでの比較的小型で、少数の肝細胞がんならば保険適用となる。通常、治療は4~5回通院し、照射を行う。放射線治療後にがんが再発しない割合(局所制御率)は9割を超える。ラジオ波焼灼術が行えない、血管や肺に近い病変が、よい適応とされている。
「定位照射のメリットは無痛なことです。高齢者や糖尿病などの持病がある人は、体の負担が少ない放射線治療も選択肢に組み入れて考えてほしい」(同)
定位照射が大型や多数個のがんに適さない理由はエックス線の特性にある。エックス線は病変に照射された後、通過していく。少数、小型ならば影響も少ないが、照射範囲が大きくなれば正常組織に抜けていく放射線も多くなる。その弱点を克服するのが陽子線や重粒子線だ。