ブローウィング・テレヴィジョン
ブローウィング・テレヴィジョン
この記事の写真をすべて見る

80年代マイルス・バンドはテレビ向きだった?
Blowing Television (Cool Jazz)

 このCDは企画賞ものかもしれない。80年代にマイルスが出演したテレビ番組のなかから記録性の高いものを2本収録し、なおかつ純粋に聴いて楽しめるよう工夫されている。これはもともとの番組の構成が優れていたからだろうが、こういう番組を探し当て、さらに無理なく抱き合わせ、1枚のCDに収録するその感覚が秀でていると思う。

 1曲目から11曲目まではスペインのテレビに出演したときのもの。マイルスをはじめハービー・ハンコックやジョージ・ベンソンのインタヴューも収録されている。英語の上からスペイン語がかぶさるのかと懸念したが、英語のまま放送されている。ここがテレビとラジオのちがいだろう。テレビは字幕という手が使えるが、ラジオではこうはいかない。ハンコックがVSOPクインテットに関して、「最初にマイルスに打診した。マイルスはイエスと答えた。しかし何も起きなかった」と語り、しかしマイルスは「あんなものはナッシングだ」と、まったく興味がなかったことを明かしている。ハンコックは決してウソをつくような人物ではないが、この発言に関してはかなりのウソが含まれていると思わざるをえない。司会者から「健康の秘訣は?」を聞かれて「水泳」と答えているマイルスが妙にほほえましい。なお演奏はすべてがコンプリートというわけではないが、不自然な残尿感もなく、じつにうまく構成されている。

 12曲目から17曲目までは有名なアメリカのテレビ番組『ディック・キャヴェット・ショー』に出演したときのもの。ディック・キャヴェットの話を聞いていると、マイルスといっしょにキャロル・ケイも出演していたらしい。ただし共演しているわけではない。ちなみにキャロル・ケイはアメリカを代表する白人女性セッション・ベーシスト、マイルスとの接点はないが、こういう人選をみると、『ディック・キャヴェット・ショー』は音楽が「わかっている」と思ってしまう。こちらの演奏はテレビ・サイズに合わせて合理的にアレンジされている。アナウンスにつづいて《バーン》に突入していくあたりのセレブ感は、いかにもこの時代のマイルスらしいテレビ的華やかさを感じさせる。

 最後にメンバーの紹介を少し。2か月のちがいということから両プログラムとも大きな変動はないが、ギターだけロベン・フォード(前者)とガース・ウェバー(後者)となっている。そしてキビキビとした演奏は、このバンドがテレビ向きのポップな要素をもっていたことを伝えている。これはこれでもうひとつの真の姿ではあると思う。

【収録曲一覧】
1 Tutu
2 Time After Time
3 Interview (Herbie Hancock-Miles Davis)
4 Al Jarreau
5 Portia
6 Burn
7 Interview (George Benson-Miles Davis)
8 Wrinkle
9 Interview (Miles Davis 1985)
10 Jean Pierre
11 Speak
12 Announcement
13 Perfect Way
14 Interview (Miles Davis)
15 Tutu
16 Announcement
17 Burn
(1 cd)

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg:1-11) Garth Webber (elg:12-17) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1-11:1986/7/24 (Spain) 12-17:1986/9/28 (LA)

[AERA最新号はこちら]