「瀬戸くんって、ああいう作品にも出るんだね。意外だった」
昨年2月、英国の劇作家フィリップ・リドリーの戯曲「マーキュリー・ファー」が、客席数約200席のシアタートラムで上演された。極限状態の中、生きるため家族のために残酷な行為を行う人間の姿が描かれた衝撃作は、終演後、号泣して立ち上がれない客が続出。瀬戸康史さんは、大河ドラマ収録の合間を縫っての出演だったが、観劇した共演者は一様に、彼の繊細な見た目と作品の骨太さのミスマッチに驚いたという。
「あのときは本当にしごかれました(苦笑)。普段はとても紳士的な(演出の)白井(晃)さんに、『もういい、帰れーっ!』って怒鳴られながら、『やらせてくださいっ!』って必死で食い下がってた。白井さんが体育の先生にしか見えなかったぐらいで、完全にスポ根ですよ。俺の目には完全に、見えない竹刀が映ってましたね(笑)」
舞台の醍醐味について聞くと、「映像では伝えきれない深いテーマを届けられるところ」と答えた。
「『マーキュリー~』なんて、絶対にテレビでは放送できない挑発的な作品だけれど、観てくださった人それぞれが何かを“実感”した手応えが、すごくあったんです。たとえば、普段は当たり前だと思っている“家族がいること”を尊く感じたり、テロリズムというものを初めて身近に捉えたり……。感じることはバラバラでも、生で、お客さんと一緒に風景を作っていける舞台は、役者としてはすごく贅沢な場所だと思います」
今年は、連続テレビ小説「あさが来た」、「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」「HOPE~期待ゼロの新入社員~」とドラマの出演が続いたが、秋には1年半ぶりの舞台に出演する。「遠野物語・奇ッ怪 其ノ参」の脚本・演出は、身近な生活と隣り合わせに現れる異界を描くことに定評のある前川知大さん。瀬戸さんは、前川さんの作品が好きで、舞台を観に行き公演後に挨拶するたびに、「いつか一緒に」と話していた。