1960年代に世界を席巻し、今も世代を超えて愛され続ける英国のロックバンド「ザ・ビートルズ」。ちょうど50年前の日本公演は“歴史的大事件”だった。
7月1日朝。ジョンはホテルを抜け出し、東京の街に出た。立ち寄った先のひとつが、表参道で工芸品や着物など外国人向けの日本製品を扱う「オリエンタルバザー」。同店の笹川喜平は今、こう話す。
「ジョンは銅製の灯籠などを買っていきました。関係者の方々が出入り口でファンが殺到しないよう見ていたようですね。ジョンはじっくりと店内を見て、正面で待ち構えるファンが大騒ぎにならないように、裏口から帰りました」
2日午後1時ごろ、「ミュージック・ライフ」の編集長だった星加ルミ子は、ホテルで単独取材に成功した。
「日本の子どもたちの流行は何だい?」とジョン。とっさに赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」の「シェー!」のポーズを教えたところ、ジョンもポールも一緒に「シェー!」。
3日間で計5公演をこなしたビートルズは7月3日午前10時40分ごろ、日本を去った。本誌は「エレキをかきならしてファンを興奮させただけであるから、ビートルズがいなくなると、当然ファンの姿も、執筆材料も、かき消えた次第である」と書いた。
伝説のステージの目撃者は、彼らに“勇気”をもらったようだ。ザ・タイガースの前身・ファニーズのベーシストだった岸部一徳(当時19)が言う。
「そこに立っているビートルズを見て、『僕らもやれる、日本一になれる』という気がしました。遠い存在なのに、どこか近い、ひと続きのようなものを感じた。若いころにしか持てない自信みたいなものをもらえた。後に同じ武道館のステージに立てたのは、タイガースのさよならコンサート(71年)のときでしたが……」
宇崎竜童(当時20)もこう話す。
「デビューしたとき、ビートルズを超えちゃったらどうしようなんて言っちゃってました(笑)。彼らの新しい曲を聴くたび、『そうきたか!』と驚き、いい意味で裏切られてばかりいました。インド音楽でも管弦楽でも、彼らがやれば全部『ビートルズ』になる。僕もそうやって、期待を裏切っていける存在でありたいと思い続けています」
※週刊朝日 2016年7月8日号より抜粋