「EU離脱」を選んだ英国の国民投票。格差の亀裂から噴き出したマグマは燎原の火となり、連合王国、欧州の連帯をも焼き尽くす可能性が出てきた。対岸の火事と思うなかれ。逃げ惑う投資家の日本買いがアベノミクスの息の根も止めるかもしれない。待ち構えるは超円高時代か。
英国は、加盟する28カ国の中でも代表的な国。抜ける影響は、計り知れない。触発されて「離脱ドミノ」は起こるのか。
いちよしアセットマネジメントの秋野充成氏はこう話す。
「(中央銀行と金融政策を一体化させたEUは)財政悪化時であっても自国で独自の政策を打てない。その結果として(強い産業を持つ)ドイツの一人勝ちとなり、周辺国が富を吸い取られている。すでにEUの分裂は始まっており、今回の英国離脱で早まるのかもしれません。欧米で同じことが起きているとみていい。現行システムへのダメ出しであり、今後もこの流れは拡大するのではないでしょうか」
今年から来年にかけて、庶民の不満のマグマに点火しかねない政治イベントもEU各国で目白押しだ。
26日にはスペイン議会で総選挙がある。イタリアでも10月に改憲を問う国民投票が予定されている。同国では「美しすぎる」ローマ市長の誕生が話題だが、同氏はユーロ離脱などを主張するポピュリスト政党「五つ星運動」の出身だ。
来春総選挙を控えるオランダでも、EU離脱を掲げる自由党が躍進している。大統領選が来春にあるフランスでは、極右「国民戦線」党首が決選投票まで進むとの見方がある。
それだけではない。11月の米大統領選を前に、アノ男の“株”が上がれば、さらに円に買いが集まる。世界中から円高を誘う風が、吹き荒れるわけだ。
輸出企業にとってはまるで悪夢のような話だが、一般の消費者には悪い話ばかりでもない。原材料やエネルギーの輸入コストは下がり、ガソリンも安くなる。
行き過ぎた円高が長期化すれば、輸出企業を中心に業績不振を招き、給料ダウンにつながる。ただ、給料が横ばいなら、輸入資材をもとにする商品物価は下がり、実質的に給料が上がったも同然となる。
さらに本誌の読者ならもうお気づきかもしれない。“円高ハリケーン”に身をかがめ、背筋に冷たいものを感じている人物がいることを。「アベノミクス」の安倍首相である。