家に、鍵のかかったピアノがあった。彼の両親は、5歳の息子にそれを弾かせてはくれなかった。鍵のありかを知っていた彼は、両親が留守の間に、こっそり鍵を開けてピアノを弾くことを楽しみにしていた。
「10歳までの5年間、僕はずっと両親に隠れてピアノを弾き続けました。“お父さんにバレたらどうしよう”という恐怖心はあったけれど、隠れてやっていることが快感でもあった。10歳のとき、ピアノを弾いているところを父に見つかって、有無を言わせず音楽院に入れられました(苦笑)」
「21世紀のモーツァルト」と呼ばれる音楽家のジョヴァンニ・アレヴィさんにとって音楽院でピアノを学ぶことは、正直苦痛でしかなかった。
「でも、僕から生まれるすべての曲は、“闇の中から光を求める”ことがテーマになっていて、それは10代で暗い時代を経験したことも影響しているんじゃないかと思います。ピアノに向かうといまだに5歳の頃の、恐怖心と喜びがないまぜになったような、不思議な感覚が蘇るんですよ。自分を壊してしまいたい衝動や不安が、いつも僕の中にはあって、だから何かを打ち破ったその先にある光を、音楽にしているのかもしれない」
5歳から10歳までは、いわゆる“耳コピ”をしていた。この曲を弾きたいという強い思いを持って集中して曲を聴き、絶対音感を頼りに、その曲をピアノで再現した。初めて作曲したのは17歳のときだ。タイトルは「Japan」。当時は漠然とだけれど、日本に強い憧れを抱いていた。