今、男性が追い詰められている。リーマン・ショック以降、不眠や起床・出勤時の動悸など、ストレス性疾患を訴える人が増えているのだ。
なぜそこまで窮地に陥ったのか。『男はなぜこんなに苦しいのか』(朝日新書)の著者・海原純子医学博士が原因に挙げるのは、男性の画一的な価値観、人生観だ。
女性は妻や母親以外にも、仕事なども含めたすべてが自分の人格だと気づく人が増えた。一方で男性は立身出世が生きる道と思っている人が依然多いという。
「リストラや賃下げが相次ぐ時代でも仕事以外を見ていない。一回だめになると全部だめになると考え、精神的な逃げ場もない。会社内のタテ型社会に慣れきり、女性のように横のつながりをつくるのが不得手。外を意識するだけでも変わります」(海原医師)
別の視点からも不憫な姿が浮かぶ。『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α新書)の著者で武蔵大学の田中俊之助教(男性学)は言う。
「相変わらず社会を駆動させる原理は男性が仕事を辞めないことになっている。日本は男性と仕事の結びつきが強すぎる。たちが悪いのは、仕事をしている限りは男性は褒められるところ。男性が家族を養い守るというイメージが強固なんです」
だが田中氏が定年退職者にインタビューをした結果が何とも悲しい。約40年間勤め上げた生活を振り返ってもらうと「何をしていたのかわからない」という回答が多かったというのだ。充実した時期を送った人にしても「あれほど人から求められた自分が、定年後は違う」とし、燃えかすのように今を否定するという。原因は、男性自身も持つ、男はこうあるべきというイメージだ。
プロ野球のスター選手だった清原和博氏。筋骨隆々、その豪快さから「番長」とも呼ばれた同氏だが、逮捕後に「本当は弱気」「優しい人間」といった、番長とは正反対の一面を関係者が語りだした。
「清原ってこういう男というイメージで相当苦しんだと思います。そのうえに男性は小さいころから競争して勝てば幸せになれると言われて育ちますが、誰も競争のゴールを知らず、何があるのかも知らない。子どもが憧れるスポーツ選手の頂点に立った清原氏ですが、称賛もゴール感もなく、意外と愕然としたのではないでしょうか」(田中氏)