今回の地震を受け、西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、野球人として何ができるのか真剣に考えているという。野球賭博問題など失った信頼をどう取り戻し、ファンに恩返しができるのか。東尾氏が思うプロ野球選手とは?

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 熊本県や大分県を中心に地震が続き、被災地では困難な生活を強いられている。支援物資が避難所の隅々まで行き届かないなど、不自由なことばかりだろう。ただ、14日に大きな地震が起きてから、全国の人々が「自分にできることは何か」を真剣に考えている。東日本大震災の教訓は生きていると信じたい。

 野球界の支援の動きも迅速だった。12球団の選手会や首脳陣がすぐに球場で募金活動をし、各球団が義援金を送る決断をした。

 東日本大震災の時は日本野球機構(NPB)が12球団と話し合い、1億円を寄付したと記憶している。今回は各球団の対応の速さもあり、NPBも単体で1千万円の義援金を送る措置をとった。この種の支援は、本来は横並びで決めるものではない。すぐにアクションを起こした点を球界OBとしてもうれしく感じている。

 難しいかもしれないが、12球団が主催試合1試合分の入場料収入を全額、せめて半額くらいを寄付してもいいと思う。被災地支援に終わりはない。継続させる必要がある。オールスター、侍ジャパンなど、日本野球界が一堂に会するイベントで、追加支援をすることも可能だ。

 プロ野球界は昨秋から野球賭博問題も含め、ファンの信頼を失う事件が相次いだ。だからというわけではないが、ファンの方々に迷惑をかけた分、何かで恩返しするしかない。

 
 私が理事を務めている日本プロ野球名球会も、来年1月に宮崎で野球教室などのイベントを実施する方向で調整している。九州全体に広がりをみせる今回の震災に対し、何ができるかを真剣に考えている。今から8カ月後に九州のみなさんが何を感じてくれるかは想像もつかないけど、行動に移さなければ何も起きない。山本浩二理事長と連携し、イベントをどんな形にするか、具体的に検討していきたい。

 最近、被災地からのメッセージや、著名人の発言などに対し、インターネットで批判の書き込みがあったという報道をいくつも目にする。どんな発言であっても、「配慮に欠ける」と非難を浴びせるばかりでは、誰も声を上げることができなくなり、下を向いてしまう。何もせずに批判だけをするのは一番よくない。全国民が被災地の声に耳を傾け、支援する側も意見を出し合おう。

 選手は試合の中では、プレーでファンに喜んでもらうことしかできない。親族が被災したという選手もいて、ロッテの伊東勤監督は地元の熊本に「すぐにでも駆けつけたい」との思いを抱えながら、グラウンドに向かっている。だが、プレーボールがかかったら、そんな心の内は一分も見せない。それがプロ野球選手である。

 被災地のみなさんは、目の前の食事、その日を生き抜くことに必死だ。みんなが早く明るい未来に目を向けられるようになることを信じ、プロ野球選手はグラウンドで光を放ち続けなくてはならない。

週刊朝日  2016年5月6-13日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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