毎夏、終戦記念日に繰り返した童話『かわいそうなぞう』(土家由岐雄作、金の星社)の朗読は、TBS時代に始まった。終戦間際に動物園で餓死させられたゾウの悲話だ。静かな語り口は聴く者の心を揺さぶり、最初の2年、自ら刷って配った物語のパンフレットは、絵本の再版へとつながった。反響の便りは毎年、数百通も届いた。
数年前からかかりつけクリニックの定期健診に出向くのは難しくなったという。米国に住む息子らが定期的に訪ねてはいたが、一人暮らしを貫いた。
「亡くなる前日まで、意識はしっかりしていました」
秘書の長原旬さんは話す。最後の食事は、うなぎとバナナ、イチゴを一口ずつ。「おいしいわね」とほほ笑んだという。
自宅の居間には、大きな切り株のテーブルが置かれている。隣地の開発で伐採されると聞いたイチョウを秋山さんが譲り受け、加工して愛用したものだ。享年99。いのちを慈しむ人だった。(本誌・渡部薫)
※週刊朝日 2016年4月29日号