シドニー、アテネと女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子、野口みずきの走りを支えたのがアシックスだ。そのクオリティーの高さは、全世界の市民ランナーにも評価される。

 さらには、03、04年とクエンティン・タランティーノ監督がハリウッドで製作した「キル・ビル」の1、2では、主人公がアシックスのシューズを履いてスクリーンに登場し、ファッション面でも人気を呼んだ。

「アシックスの主力商品は、クッション性と軽さを追求したシューズです。昨今のランニングブームで品質を認められ、ニューヨーク、ロンドン、パリとマラソンのオフィシャルになれた。アメリカで人気を呼び、それがヨーロッパに飛び火して、日本に戻った感じですね」(同OB)

 アシックスの品質はライバル、ミズノのOBも舌を巻くほどだ。

「ウチよりも長くシューズを手掛けていますから、一日の長があります。特にゴムの配合は目を見張ります。また、世界を相手にした販売網が強く、追いつけないですね」

 とはいえ、ミズノも女子バレー、重量挙げ、ボクシングなど各競技団体のユニホームやウェアでリオ・東京五輪を戦う。1991年の世界陸上で活躍したカール・ルイス、F1の伝説的ドライバー、アイルトン・セナ、サッカーの本田圭佑、そしてマイク・タイソンが最後に挑んだ世界王者、レノックス・ルイスをはじめとしたボクシングの世界王者など、複数の種目で、トッププロから絶賛され続けている。

 だが、こうした国内メーカーの競争を笑い飛ばすのがナイキである。ナイキ創立者のフィル・ナイトが、元々アシックスの米国代理店営業マンだったのは有名な話だ。ある現役社員は語る。

「日本人がメダルを取って、表彰台に上がる可能性ってどのくらいですか? 相当低いでしょう。ならば自国に150億円も注ぎ込まずに、他国のナショナルチームなり、個人に賭けるべきだというのが、ナイキの考え方です。オリンピックの中でも花形種目である100メートルのファイナルで、何人が弊社のスパイクを履くかが勝負だと思っています」

 ナイキがサッカーの強豪国、ブラジル、オランダなどのユニホームを手掛ける意図がよくわかる発言だ。

 その100メートルを連覇し、リオが最後の五輪と公言するウサイン・ボルトは、03年からプーマを愛用している。サッカー界のスーパースターだったペレ、クライフ、マラドーナ等、プーマは世界の超一流選手に絞って契約を結ぶ。

 ナイキと双璧規模のアディダスは、五輪よりもサッカーのW杯に力を注いでいるという。日本代表のオフィシャルサプライヤーとしては、15年4月から8年の契約を締結した。

 アスリートが、どのメーカーからバックアップされているのか。そんな視点から五輪を見つめるのもおもしろいかもしれない。(林 壮一)

週刊朝日 2016年4月22日号

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