ネットを中心に加熱する炎上劇。ジャーナリストの津田大介氏は、そこには好き勝手な発信者とマスコミが生んだ「一億総ツッコミ社会」があるという。
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ここ数年で「ネット炎上」が増えているように感じるのは、ネット空間での議論が、表舞台に上ることが急増したからではないでしょうか。これまで「2ちゃんねる」など、ある程度閉ざされたネット空間で話されていた議論が、「まとめサイト」やSNSの普及、そしてマスコミによって、広く可視化されるようになった。これによって、「その場限りのオフレコな話題」としてアングラな場で交わされていた会話が、時に「世論」として捉えられてしまう事態が発生し始めたのではと感じています。
日本で最初に炎上が意識され始めたのは、ブログサービスが一般に普及してきた2004年前後。当時の「炎上」といえば、ブログのコメント欄に批判が殺到することを指していました。その後、ツイッターが爆発的に普及し、炎上の舞台はすっかりツイッターに変わりました。ツイッターは、とにかく拡散するSNS。瞬く間に炎上し、それが広く知れ渡るようになってしまったのです。
さらに、こうした炎上をニュース化するマスコミが、「一億総ツッコミ社会」を助長させている面も大きい。マスコミ側が一般の人たちの発信を「情報源」として頼るようになってしまいました。ネット上で語られていることに対して、マスコミとネット、両者が“共犯関係”になったことで、ネットの発信力は以前と比べ物にならない強大な力を持ちました。一部の人たちがネット上で交わしている議論の内容を、「世論」として取り上げることの危険性をもっと認識すべきではないでしょうか。両者には適切な緊張関係が必要です。
※週刊朝日 2016年4月22日号