「いい学校に入らなければ人生はだめになる」というのは誤った思い込み。受験の失敗は自分の内側を見つめる好機でもある(写真/Getty
「いい学校に入らなければ人生はだめになる」というのは誤った思い込み。受験の失敗は自分の内側を見つめる好機でもある(写真/Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 中学受験では第1志望に合格する子が約3割といわれ、多くは「挫折」を経験する。そのときに親はどう言葉をかけたらいいのか。僧侶と学者が語り合った。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。

【この記事の写真をもっと見る】

*  *  *

 中学受験をする子どもは増え続けている。希望通りにならなかった時、親は子どもにどう接すればいいのか。相談者2千人待ちといわれる大愚元勝和尚と、子どもが中学受験を経験した政治学者でPTA会長を3年務めた岡田憲治氏が語り合った。

──中学受験で「第1志望」に合格できる子は3割、途中でレベルを下げることなく、本当に行きたかった学校に行ける子は1割ともいわれています。

大愚:私は人生のできるだけ早い段階で挫折を経験した方がいいと思っています。これは慰めでもなんでもありません。そうすることで初めて、私たちは自分の「内側」に目を向けることができるようになるからです。学校で勉強することは全て自分の「外側」にあることです。地球はどう動くか、円の面積は、社会のシステムは、などですね。大切なことですが、それは世の中にうまく対処するための外側の知識や情報に過ぎません。

■受験は効率よく情報を整理する能力

岡田:受験勉強はなおさらです。特に「4教科型」といわれる難関私立中学向けの受験勉強は、そういった「外にある情報の出し入れ」に特化しています。迅速に効率よく情報を整理する能力が求められ、それに長(た)けた子が合格します。ただ、それができたからといって、あと80年の人生が保証されるわけではありません。人生はまだ何も始まってませんから。

大愚:学校では自分の「内側」や人生そのものについては、なかなか学ぶことはできません。例えば私たちは、けがや病気になって初めて、自分の内側に注意を向けるようになります。それは心も同じです。恋愛、受験などの大きなダメージをきっかけに、自分の「内側」を見つめるようになる。中学受験では、その機会を、極めて多感で豊かな感性を持っている時期に、しかも親子で持つことになるわけです。これは得難い経験です。

岡田:僕の肩書を見た人は、大学院を出て、すっと専修大学の教授になったと思うようですが、とんでもない。月給と賞与のある常勤の教員になったのは、38歳ですよ。学部を出てから15年もかかった。しかもこの間、大学教員公募の不採用通知を80発もらっています。「お前は必要ないよ」と書かれた書面が80枚です。でもその後、既知の先輩が大学の助教授(当時)候補に推薦してくれて、投票2回目に1票差で奇跡が起こりました。

次のページ