ハリウッド・ボウルでのジャーンから、それはもう
Hollywood Star People (Sapodisk)
カーネギー・ホールとか「ヴィレッジ・ヴァンガード」とか、音楽ファンにとっては、自由の女神やセントラル・パークといった名所、観光地よりも大切な重要な場所があります。ぼくにとっては、ずっと長い間、ロセンゼルスのハリウッド・ボウルがそうでした。
理由は、ビートルズのハリウッド・ボウルでのライヴ盤という単純なものですが、野外のステージというイメージが湧かなかったのです。ボウルのボウルって、どのくらいのボウルなのだろう。客席は、どんなふうになっているのだろう。1982年だったと思います。はじめてハリウッド・ボウルに行くことができました。感激しました。プレイボーイ・ジャズ・フェスティヴァルの取材が目的でした。以来、毎年夏は、最初にハリウッド・ボウルでプレイボーイ・ジャズ・フェスティヴァルを取材して、その足でニューヨークまで行くというのがパターンになりました。いまにして思えば贅沢なツアーです。
感激はしましたが、夜になると寒くて寒くて、とても音楽を聴いて楽しんでいる場合ではありません。ロサンゼルスはただでさえ夜になると冷えるのですが、ハリウッド・ボウルはとくに山間部にあります。日によって多少の高低差はあるのでしょうが、だいたいはものすごーく温度が下がって、それはそれは寒くなる。カーディガン程度ではダメです。かといって厚手のコートは不要ですが、それなりの準備が必要です。あと、アルコールですかね。
さて、マイルスもハリウッド・ボウルには縁があります。それこそ何度も出ています。そして、生涯最後のステージも、ここハリウッド・ボウルでした。ちょっと悲しい思い出ですが、いまとなっては残された思い出に感謝することができる幸せをかみしめたいと思います(まもなく命日ですね)。
今回ご紹介するのは、83年のハリウッド・ボウル公演です。メンバーは、いわゆるカムバック・バンドと大差ありませんが、ギターだけマイク・スターンからジョン・スコフィールドに代わっています。それにともない、1曲目もジャーンの《スピーク》です。それまでの《バック・シート・ベティ》も同じジャーンですが、鋭さがちがうように思います。オーディエンス録音で、良好ではありますが、そばに座っていたお客がピーチクパーチクとうるさいです。そうです、これがハリウッド・ボウルにおける正しいコンサートの楽しみ方なのであります。ワインを飲みながらマイルスを聴き、友人知人と近況を報告しあう。うーん。このライヴを聴いていると、アメリカが実感できます。
【収録曲一覧】
1 Speak
2 Star People
3 What It Is
4 It Gets Better
5 Hopscotch
6 Star On Cicely
7 Jean Pierre
8 Untitled Tune
(1 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, elp) John Scofield (elg) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1983/7/20 (LA)