妻:一目ぼれですかねえ。

夫:お母ちゃんが俺にほれたんだろうよ。

妻:よく言うわよ!

――やがて夫は妻の店に通い詰めるようになったが、1年あまり、アメリカ遠征に出ることに。アメリカから毎日のように手紙を書き、当時まだ高価だった国際電話を頻繁にかけたという。「距離は離れても、ふたりの心はどんどん近づいていった」と夫は笑う。

夫:出発の日、羽田まで見送りに来てくれました。その時、もうこれでお別れかなと思いましたよ。でもね、毎日、彼女から荷物が届いたんです。レトルトのカレーやインスタントラーメン、日本の歌のカセットテープとかね。それが嬉しくてね。

妻:一人で寂しいだろうと思ったのよ。

夫:こんな女性、手放したら二度と現れないぞ!と思いましたよ。年末休みには、ハワイでデートしたよな。

妻:私も人生初の海外旅行でした。店で一緒に働いていた女の子と二人でツアーに申し込んだんです。彼に会いに行くなんて言ったら親が許すわけがないから、従業員を巻き込んで(笑)。1ドルが300円台でしたよ。

夫:実はその時、ハリウッドから仕事の話が来てたんです。空手使いの役でね。こっちは彼女に会いたいもんだから「日本の会社から戻ってこいと言われている」って嘘をついて……(笑)。確かそっちが1日2日、先に着いてたんだよな。ムームーを着て空港に迎えに来たのを覚えてる。

妻:そうそう。でも私、着いてから風邪ひいちゃってね。咳が止まらなくて。

夫:それでも海で遊んだり夜は飲みに行ったり……。

妻:アメリカ暮らしが長いから、彼は英語ができたんです。それがまた、かっこよく見えてね。

週刊朝日  2016年2月19日号より抜粋

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