憲法改正を訴えながらも具体的な考えを示さない安倍晋三首相。その狙いはどこにあるのかジャーナリストの田原総一朗氏が指摘する。
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安倍晋三首相は、ことあるごとに憲法改正を主張している。
昨年11月末、自ら率いる右派国会議員らの会合で次のように述べた。
「憲法改正をはじめ、占領時代につくられたさまざまな仕組みを変えていこうという(自民党の)立党の原点を呼び起こさなければならない」
また、先の参院決算委員会では、「いよいよどの条項について改正すべきか、新たな現実的な段階に移ってきた」と強調した。
だが、そこまで言いながら、民主党の岡田克也代表が代表質問で改正項目の明示を求めても、首相は応じなかった。
施政方針演説で、安倍首相は「私たち国会議員は、正々堂々と議論し、逃げることなく答えを出していく。その責任を果たしていこう」と呼びかけた。ならば、まず自身の考えを語るべきだ。
産経新聞までが、社説で「具体項目を示すと、護憲勢力の反発に遭うことを懸念しているのか。与党内に足並みの乱れが生じることを恐れるのか。いずれにしても、『国民的議論の深まりの中でおのずと定まってくる』という他人任せの姿勢では、改正論議は深まりようもない」と批判している。
私は、護憲ではない。
昨年の7月11日に朝日新聞がデジタル版で報じた調査で、憲法学者(調査に応じた)122人のうち50人が「自衛隊は憲法違反である」と答えていて、残りのうち27人が、「憲法違反の可能性あり」と答えているのである。私は憲法9条の2項で自衛隊の存在を認め、日本に自衛隊ありと明記すべきだと考えている。
現在の96条が定める憲法改正の手続きでは、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が改正を発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
実は、自民党が2012年に作成した草案では「両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し」となっていて、このように改正しようとしているのだろう。
一方、民主党をはじめ野党が非常に気にしているのは、安倍首相が「緊急事態条項」の新設を図ろうとしていることだ。やはり12年の草案には、「第98条」として「緊急事態の宣言」なる項目が新設されている。
「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」
「第99条」にはさらに、次のような文言も入っている。
「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより(中略)国その他公の機関の指示に従わなければならない」
野党は「緊急事態」の設定が曖昧で、首相の完全な独裁体制になることを危惧しているのだ。
憲法のどの部分を、何ゆえに、どのように改正するのか。選挙の前に国会で十分に審議すべきである。
※週刊朝日 2016年2月12日号