広がる格差問題が叫ばれる日本。しかし、伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は「過度の結果平等は働く意欲を削ぎ国力を落とす」とその風潮に疑問を呈する。

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 昨年、このコラムに中学の水泳部の部活動で汚いプールの水を飲んでいたおかげでインド赴任中にもおなかを壊さなかったカユミ君のことを書いた。それを読んだカユミ君からメールが来た。

「当時は、貴兄同様に痩せていましたから、デブのA君、S君たちが羨ましかったですね……。懐かしい時代です」

 たしかに、水温が10度の4月から泳がされていたから、私やカユミ君のようなヤセ組はつらかった。

「本当に懐かしい時代ですね。当時は、私だけが正三角形で、他の部員は皆、逆三角形だと思っていましたが、今や、全員が、円錐形ですね。経路は違っても行き着くところは皆同じです」

 と返信しておいた。

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 昔、中国、ロシアなどの共産主義国家は、“結果”平等社会を目指していた。一方、資本主義国家は“機会”平等社会の実現を目指していた。ところが最近では両者とも格差が大きな問題になってきている。経路は違っても格差の顕在化という結果は同じだったのだ。

 皮肉なのは、「格差是正」という共産革命を、現在“より必要”としているのは、ロシアや中国など「かつての共産主義国家だ」という点だ。仏経済紙レゼコーによると、中国は「世界の富豪生産地」になったそうだ。富豪と内陸農村部住民との格差はかなりのものだ。

 日本でも格差是正が騒がれているが、私の部下だったモルガン銀行勤務の外国人はかならずや「日本は世界一格差のない国だ」と言いながら帰国したものだ。褒め言葉ではない。活力を失った日本経済を揶揄(やゆ)する言葉だ。過度の結果平等は働く意欲を削ぎ国力を落とす。

 
 2015年7月26日付の朝日新聞によると、15年3月期の役員報酬のトップは日産自動車のカルロス・ゴーン社長で10億3500万円、10位がトヨタ自動車の豊田章男社長で3億5100万円だったそうだ。

「従業員との格差がすさまじい」との主張を日本でもよく聞く。しかし人事コンサルティングのタワーズワトソンによると、大手企業CEOの報酬を中央値で比べると、米国が11.5億円、英国は5.4億円なのに対し、日本は1.2億円でしかないそうだ。

 同日の朝日新聞には「米、格差開示の動き」という記事も載っていた。米シンクタンク「経済政策研究所」によると、売上高で上位350社の米企業のCEOの得た13年の平均年間報酬は、1520万ドル(約18億7千万円)で、従業員の約300倍だったそうだ。

 日本でトップのカルロス・ゴーン氏の年収(10億3500万円)でさえ米国のCEOの平均報酬の半分しかないということだ。いわんや10位の豊田社長においては5分の1以下だ。

 米企業での勤務経験のある私に言わせると、トップの能力により企業業績には雲泥の差がつく。それにもかかわらず「格差是正、格差是正」と騒ぐのはいかがなものか? 企業の持ち主である株主にとっては「低い報酬で能力のない」経営者より、「高い報酬でも能力の高い」経営者のほうがよほどいい。業績が良くなれば従業員の給料も上がる。仕事は増える。個人消費は増え景気は好転する。法人税収も増え、国の財政赤字も減る。社会に活力が生まれる。日本国の国際競争力も増す。

週刊朝日 2016年1月29日号