コンプリート・ロスト・クインテット・イン・ウィーン
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究極のロスト・クインテット伝説のウィーン・ライヴ
Complete Lost Quintet In Vienna (One And One)

 ウエイン・ショーターが交通渋滞に巻き込まれて間に合わなかった『ビッチェズ・ブリュー・ライヴ』を受けて、今回は5人が揃った、ロスト・クインテットのウィーン・ライヴをご紹介。前述のライヴ盤の約3か月後、さらには『ビッチェズ・ブリュー』録音の約2か月後という微妙かつ興味深い時期のライヴ。いきなり1曲目が《ビッチェズ・ブリュー》という展開が、この時期特有の空気を感じさせ、いっきに引き込まれる。

 加えて重要なことは、従来盤に比べて若干長くなり、音質も別物に生まれ変わったこと。これは大きい。基本的にリマスターの類は「キリがない」ことから、あまり積極的に聴く気にも紹介する気にもなれないが(その前に聴かなければ、紹介しなければならない発掘音源が山積しているし)、このレヴェルまでくると、やはり聴かずには、聴いてもらわずにはいられない。なおこの日のライヴは、かつて『ロスト・クインテット・イン・ウィーン』としてソー・ホワット・レーベルから出ていた。そのヴァージョンアップならびに究極盤ということになる。

 内容に関しては、改めて申し上げるまでもないでしょう。と言いつつ申し上げますが、このライヴはほんとうにすごい! というかロスト・クインテットのライヴは毎回毎回「本当にすごい!」の連続攻撃なのですが、いつもより前衛的色彩が濃く、その「濃さ」がたまらなく、かつ尋常でない。その意味で、ここまで聴き手を置き去りにしたロスト・クインテット音源も少ないのではないだろうか。そして聴き手としては、この「置き去りにされた感」がそのまま快感へと変わり、最後まで翻弄されっぱなしという、理想的な地獄巡りが体験できる。これぞロスト・クインテットの究極の楽しみであり、このライヴ盤の存在価値は、その点にかかっている。マイルスやショーターはもちろん、このクインテットはチック・コリアの活躍が、それはもう恐ろしいほど。どなたか、このチックをいま現在のチックに聴かせてあげたほうがいいのではないでしょうか。

 最後に恒例の新刊告知をさせていただきます。何度かお伝えしていた『マイルス・デイヴィス「アガルタ」「パンゲア」の真実』(河出書房新社)は3月下旬に刊行されますが、その直前に翻訳書『スコット・ラファロ:その生涯と音楽(翡翠の夢を追って)』(国書刊行会)が刊行されます。著者は、スコット・ラファロの妹ヘレン・ラファロ・フェルナンデス、訳は中山と吉井誠一郎さんとの共訳となっています。少々値が張る本ですが、ラファロ及びビル・エヴァンスのファンの方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。

【収録曲一覧】
1 Band Warming Up-Bitches Brew
2 Agitation
3 Miles Runs The Voodoo Down
4 I Fall In Love Too Easily
5 Sanctuary-The Theme

Miles Davis (tp) Wayne Shorter (ss, ts) Chick Corea (elp) Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds)

1969/10/31 (Vienna)

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