がん診療とともに、養生にも造詣が深い名医・帯津良一先生(79)と養生の達人との問答、今回のお相手は元経済企画庁長官で弁護士の相澤英之さん(96)です。終戦後、ソ連に抑留され帰国、大蔵官僚、政治家の道を歩み、今も現役の弁護士という相澤さんの96年の迫力ある生き方に帯津先生も感心することしきりでした。
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帯津(以下、帯):1990年、70歳のときに経済企画庁長官になられましたね。じゃあ、70代は脂がのりきっていた。
相澤(以下、相):まあ、そうですね。
帯:80代はどういうときでしたか。
相:80代は、10回目の選挙で落っこちたんですね。84歳で負けましたから、弁護士に切り替えた。そういう感じですかね。
帯:80代のときに、いわゆる隠居というようなことを思ってもおかしくなかったですよね。
相:うん。だけど引退して、遊んでいようという気はなかったですね。
帯:80代に向けての意気込みみたいなものをまだお持ちだったんですか。
相:そうですね、弁護士としてとにかくできるだけ社会奉仕の精神でやろうという気持ちでしたね。
帯:やはり引退の気持ちを持ったらダメですね。そして、今は90代なんですが、いかがですか。
相:もうここまできたんだから東京オリンピックは見てやろうと思いますね。あのね、ちょうど前の東京オリンピックの競技場などを造るときに僕は予算を担当していたんですよ。選手村なんかも造ったしね。ああいう施設は造っても維持するのにカネがかかる。だから国体やった県は必ず赤字になる。一生懸命造っちゃうからね。維持費にもカネがかかって見返りの収入の確保もできない。それは今度のオリンピックにも言えるんじゃないですか。
帯:やはり今回の新国立競技場の問題はとんでもないですね。90歳になられたときにはもう、オリンピックが東京で開催されたら見てやろうと思われていたんですか。
相:思ってた。あと5年か。
帯:もうすぐです。最近の体調はいかがなんですか。
相:大丈夫です。でも、私の感覚で言うと、全体に体が、イカで言うと干からびてきてスルメになるような感じですね。肺活量にしても最高のときには6千近かったと思うんですよね。今は3千。それから握力も私は左側も強かったんですよ。60近く。でも今は30ないですもの。だから、体には気を付けている。安全運転をする感じですね。
帯:自分の体の変化をよく知るということですね。それに合わせて生きる。
相:そうですね。
帯:作家の遠藤周作さんが、「70代になったら死後の世界からのささやきが聞こえてくる」と書いているんですが、90代では、どうなんでしょうか。
相:それはないなぁ。
※週刊朝日 2015年12月11日号より抜粋