JR信越本線旧線[群馬県安中市]4連アーチ状のメガネ橋。200万個以上のレンガが使われている(撮影/写真部・松永卓也)
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JR信越本線旧線
[群馬県安中市]
4連アーチ状のメガネ橋。200万個以上のレンガが使われている(撮影/写真部・松永卓也)
横川駅そばの「碓氷峠鉄道文化むら」には、かつて活躍した列車が並ぶ(撮影/写真部・松永卓也)
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横川駅そばの「碓氷峠鉄道文化むら」には、かつて活躍した列車が並ぶ(撮影/写真部・松永卓也)

 列車が走っていた頃の面影を探しながら、往時の姿に思いをはせる“廃線旅”。廃線をこよなく愛するノンフィクション作家の梯久美子さんが、この季節におすすめのコースを歩いた。

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 廃線旅というと、藪をこぎ、土手をよじ登り、道なき道を行くというイメージがあるかもしれないが、首都圏から日帰りで行けるところに「絶景廃線」と呼びたくなる路線がいくつもある。その代表が信越本線旧線だ。

 この路線の最大の遺構は、碓氷峠のめがね橋。明治の世に蒸気機関車が駆け抜けたレンガのアーチ橋を歩いて渡ることができる。数年前、JR東日本のCMで、あの吉永小百合さんがここを歩いていたのを覚えている人もいるだろう。

 高さ31メートルの橋の上から見る紅葉は、言葉を失う美しさ。他にもレンガ造りの変電所や意匠を凝らしたトンネルなど見どころが多く、実に絵になる廃線である。線路跡は整備されていて歩きやすく、家族でのハイキングにもおすすめだ。

 もうひとつ、この季節にぜひ歩きたいのが中央本線の旧大日影トンネル。明治36年に開通したレンガ造りの堂々たるトンネルが、ほぼ現役時代のまま残っている。全長1368メートルで、これほど長いトンネルの中を歩く経験ができるところは他にない。内部は照明に照らされてレンガが赤く浮かび上がり、幻想的な雰囲気だ。

 このトンネルのある勝沼は、ワインで知られるぶどうの里。明治時代、秋になると、ぶどうを積み込んだ貨車が東京を目指してひた走った。

 富岡製糸場や韮山反射炉などの産業遺産が世界遺産に登録されて話題を集めているが、橋やトンネルなどの鉄道の遺構もまた日本を代表する産業遺産だ。近代化の夢を抱いた明治人によって作られ、その後の時代の人々によって大切に守られ、使い続けられてきたものたちには、独特の力強さとぬくもりがある。

 廃線をたどる旅は、私たちに直接つながる歴史にふれる旅でもある。絶景を楽しみつつ、日本の近代を築いた名もない人々に思いをはせてはどうだろう。

週刊朝日  2015年11月20日号