もう一つは「場所打ち杭」。支持層が出てくるまで掘って、その場で杭を造る工法で、より強固な基礎が必要なタワマンなどの超高層建築に使う。このほか支持層が地盤の浅い所にある場合は、全部掘って支持層を露出させ、その上に建てる「直接基礎」工法もあり、原子力発電所やマンションにも使われている。物件選びの際、これらの豆知識を知っているだけでも無用な心配は減りそうだ。
ではモデルルームや内覧など、現地に行った際にできることはあるのだろうか。ホームインスペクション(住宅診断)で実績のある不動産コンサルティング会社さくら事務所(東京都渋谷区)の土屋輝之さんによると、最も重要なのは、意外にも「見た目」ではなく、「管理組合の運営状況」という。土屋さんは言う。
「建物で致命的な問題を抱えているのはごくごく一部です。ただ管理に問題があると、自分一人ではどうにもならない。分譲新築時は問題ないのですが、入居者の維持管理次第でどんどん変わってしまうんです」
土屋さんによると、不具合が出る段階にない新築物件は津波、河川氾濫、液状化などの影響を行政が出すハザードマップで確認することや、モデルルーム内に置いてある設計図面で掘削データや杭の工法を見る以外、有効な対策はない。
売れ残り物件の場合も「できたて」のため、不具合はまず見えない。専門家と一緒にバスルームの点検口からコンクリート躯体などを確認するのがせいぜいのようだ。一方で中古は「管理組合の実態を見れば、新築よりもしっかりしたものが選べる」というのだ。
例えば、目の付け所の一つは修繕積立金だ。「残高や滞納額を見ると、住人の素性すら見えてきます。長期修繕計画に比べて、金額を早く大きく積み立てていれば活発です。一方で滞納額が多かったり、駐車場の空きが多いと、その組合は予定した収入を得られていないということになる」
また「ひび割れ」も重要な手がかりになる。マンションは分譲後2年間は広範なアフターサービスで保証され、活発な組合ならば、例えばコンクリートの乾燥収縮でできたひび割れをその期間中に修繕し、記録も残しているという。
一方で、ひび割れでも、各階の同じ方角の壁などに「同じ傾向性」を持ったひびが現れた場合は構造問題の可能性ありだ。玄関ドアやサッシに異常がある場合も要注意。「直接コンクリートに設置されている部分なので、躯体の異常を察知しやすい」という。
ただ世間では勘違いも多いようだ。例えば、部屋の中のドアの異常。土屋さんによると、屋内ドアはあくまで「内装」の一つで、構造問題ではない。また、ビー玉やゴルフボールを転がし、床の傾きを調べる人も多いが、「床の水平はそんなに精密ではありません。マンションではコンクリート床の上に舞台のような床を載せた二重床が多く、ほとんどはその足の高さを調整すれば解決する」と話す。
※週刊朝日 2015年11月13日号より抜粋
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