自衛隊の通信関係予算の“無駄”については、じつは財務省もすでに承知している。昨年の予算要求時、財務省主計局担当者から防衛省の担当者に「マイクロ回線は容量の上限もある。民間の回線もいろいろ出ているなかで見直しをはかるべきでは」との意見が出された。財務官僚は言う。
「マイクロ回線の構想を決めたのはかなり前のことで、環境が変化するなか、限られた予算で効率的な整備をするかはきちんと検討すべきではないか」
防衛省内部でも通信ネットワークの議論は交わされている。
ある防衛省関係者によると、今年、防衛省の内局と4幕僚の情報通信担当課長らが集まり、通信トラブル、メーカー情報などを話し合う会議で幕僚監部の一人がこう言った。
「マイクロ回線はやめるべきではないか」
だが、この発言は「爆弾」と受け止められて黙殺され、その後の前向きな議論にはつながらなかったという
それにしても、これだけの反対意見がありながら、防衛省はなぜ、老朽化した半世紀前の通信回線を使い続けるのか。ある防衛省OBが、こう解説する。
「そもそもマイクロ回線の主要機器を納入しているNECなどの大手機器メーカーには、自衛隊からたくさんのOBが再就職している」
日本の防衛産業は、利幅は薄いが、防衛省が安定的に装備品を発注するので、企業としては事業計画が立てやすいと言われている。一方で、官民の癒着もかねて指摘されていた。自衛隊の装備調達に詳しい大阪大学大学院客員准教授の久保田ゆかり氏は言う。
「防衛省と企業で一度関係ができると、防衛省がそれを壊すことは難しい。装備品を生産している企業が少なく、調達先を失うことにつながるからです。防衛省と企業の関係を含めて防衛調達制度は硬直的で、新しい兵器システムが必要になっても、予定を前倒しして新しい装備を導入するようなことは基本的にしないのです」