
1948年、福岡県生まれ。推理小説「三毛猫ホームズ」シリーズなどが有名。『天使にかける橋』(角川文庫)が発売予定(撮影/関口達朗)
作家の赤川次郎(67)さんが、安保関連法案を強行に採決しようとする安倍政権に絶望しているという。
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東日本大震災が起きた際、しばらく原発は稼働しない方向に舵を切らざるを得ないだろうと思っていました。それがもう原発再稼働。オリンピックもある。大地震の起きる可能性が数億分の1でも、起きてしまえば100%です。
これらの議論を置いておいて、安保関連法案の審議とは、よくもできるものです。
大震災での原発事故など刑事責任を問われて当然なのに、だれも問われなかった。数年前に恋愛禁止のアイドルグループの女性が恋愛問題を起こして、その子が世間から責められて丸坊主になったことがありました。これはリンチに近い。
攻撃しても大丈夫な相手は皆で責めるが、大きな事件の責任は問わない。そういう時代があまりに当たり前になって、それに対して「変だ」という声も上がらなくなっているのが怖い。
安保法案ができたことで自衛隊員が世界のどこかで死んだって、当然のことながら誰も責任を取らないですよ。万一、自衛隊員が死んだら国会議員たちの責任。今度の法案に賛成した人の名前を石碑にでも刻んでおくべきでしょう。
法案審議についての安倍首相をはじめとした政府与党の発言は、むちゃくちゃです。たとえば、「核兵器輸送は排除していない」などという説明は、非核三原則を知っていれば出てこない。ホルムズ海峡封鎖の説明も、発言内容が次から次へと変わっています。
まともに答える気がないんですね。採決まで辛抱すれば通るのだからと、それまでのらりくらりと自説をしゃべっているだけ。
戦後70年談話も日本語として変でした。主語がなく、侵略や植民地支配を誰がしたのかもわからない。どう英訳したのでしょう。言葉で表現することこそが人間の知性。最近の政治レベルの低さに愕然(がくぜん)とせざるを得ません。
世の中もおかしい。
社会や権力が自分に牙をむく──。検察官と反権力ジャーナリストを主人公にした小説『東京零年』(集英社)は近未来の日本を描いたつもりですが、今でも起こりうると思います。