作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は8月30日の国会前デモに参加したという。
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8月30日、安保法案に反対する国会前デモに参加した。開始の1時間前には着いたのだけど既に国会前には人が溢れていた。それは満員時の山手線並みの混雑だったので、私はそこから離れ、日比谷公園方向に歩いた。つまりは国会前に向かう人の波に逆走したのだけど、すれ違う人々を見て改めて実感する。色んな人が、いる! 中学生がいる。ベビーカーを押す若い夫婦がいる。創価学会のグループがいる。ママたちがいる!
国会からお堀に向かって貫く幅約50メートルの道路の端で、私は立ち止まった。高台になっているその場から日比谷方向を眺めると、切れる気配のない厚い人の波が、こちらに向かってくるのが分かる。ドキドキしてきた。
国会前デモが始まって以来、車道に人が出ないよう、歩道には厳重に柵が設けられていた。そのため歩道が山手線状態になり、気分が悪くなる人も少なくなかった。この日のデモの目標は10万人だ。おそらく歩道だけですむはずがないことは、柵を守る警察が一番、分かっていたはずだ。信号が青になる度、吐き出されるように人がこちらに向かってくる。いったいいつ、柵が決壊するのか。どのように、決壊するのか。そう考えているうちにあちこちでシュプレヒコールが始まった。「民主主義って何だ!」。人の波が答える。「これだ!」
私はその様子を後ろの方で見ていた。太い道路の終わりの方で、警察が黄色い「立ち入り禁止」のテープをスルスルと畳み、人の波を道路の中に受け入れた。それからはあっという間だった。人の波が、じわじわと50メートルの道路に広がっていった。慎重に、静かに、じわじわと。手をあげ、声をあげ、国会議事堂に向かう人々の背中が凛々しかった。誰もはしゃいでいない。誰も暴れていない。本気の背中だ。
強いリーダーを求めて、面倒くさいことは国にお任せで、経済がよければOKで、沖縄が苦しもうが無視で、原発の対案だせないなら黙れという言葉に呑み込まれるように生きてきた、全然民主主義じゃなーい戦後70年を終わらせよう! そんな空気が、この夏、生まれたのだと思った。若者たちの必死な声が、諦めかけていた社会の空気を変えたのだと思った。
閉じられた柵は、暴力を振るわずとも、開いた。同じように、もう止められない声が何かの扉を開けかけているのだと思う。2015年8月30日、歴史的な日になるのだと信じたい。
※週刊朝日 2015年9月18日号