いま待望論が起きている招致エンブレムは2011年に、当時、女子美術大4年生だった島峰藍さん(26)が制作したものだ。
5色の桜の花がリースになったデザイン。リースには「再び戻る」という意味があり、島峰さんは「東日本大震災で苦しむ日本に活気が戻るよう願いを込めました」。その思いが通じての開催決定だった。現在、大手広告会社で働く島峰さんは「取材お断り」だったが、エンブレムに込められたメッセージは多くの人に浸透している。
残念ながら、招致エンブレムは無償利用されていて、いまさらスポンサー限定の有償利用にすることはできない。そもそもIOC憲章によって使用が認められていないため、組織委は新しいエンブレム公募の準備を始めている。
そんな中、1964年の前回東京五輪のエンブレムを推すのは、漫画家のやくみつる氏だ。
「再び選考したところで、類似作品が出てきて、今回と同じ結果になる。そもそも、なぜ前回五輪のエンブレムを使わないのか。明快で格調高く、荘厳。あれを超えるデザインはない。先人へのリスペクトを持ち、2度目開催のメリットを考えていくことが必要だ」
この意見にうなずくのは、大手広告会社で働くデザイナーの女性だ。数々の受賞歴があり、今回も応募資格があった。だが、
「もう怖くて応募できない。64年のエンブレムで進めるのが誰も傷つかなくていいと思う」
萎縮してしまったデザイン業界。2020年五輪の成功への道のりは、また厳しくなったようだ。
※週刊朝日 2015年9月18日号