一人でいると美しい音色を出したくなる(撮影/写真部・岸本絢)
一人でいると美しい音色を出したくなる(撮影/写真部・岸本絢)
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 認知症予備軍の軽度認知障害(MCI)や軽度の認知症患者を対象に、オリーブクリニックお茶の水のデイケアでは音楽療法が行われている。認知症早期治療実体験ルポ「ボケてたまるか!」の筆者・山本朋史記者はオンチで苦手だと思っていたそうだが、「このごろ俄然(がぜん)おもしろくなってきた」という。体験レポートをお届けする。

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 プログラムの第2弾・合奏では、ウクレレを持たされた。隣の佐々木慶太郎さんは持参したマイウクレレだ。ぼくにとっては初めてのウクレレ体験である。FとかCとかG7とか聞きなれない言葉が飛び交う。筑波大学附属病院のデイケアでも何回か教えていただいた折山もと子さんが白いボードに音符を書いていく。

 ぼくは佐々木さんに教わりながら、ついていこうと必死だ。FとCのコードは弾けるようになった。G7でつまずいた。思いと動きがごちゃごちゃになって指を正しい位置に置けないのだ。朝田隆医師の訓練にあった指の運動につながるものだな、これは。

「楽器を演奏すると、指を動かすし、脳が活性化します。弦楽器の演奏が脳にいいのは証明されています。興味を持った楽器を格安で購入し自宅でも練習している仲間がいますよ。佐々木さんのように。山本さんマイウクレレでやりませんか」

 折山さんにこう言われたが、ぼくは柄にもなく皮膚が弱い。弦を押さえるだけで指先が痛くなる。血豆ができそうだ。折山さんは「血が出て一人前」なんて言うが、勘弁してください。

 代わりにと言ってはなんだが、このときに紹介されたプサルタリーというフランスの古楽器に興味を持った。膝の上にのせバイオリンのように弓を使って弾いてみると、中国の胡弓(こきゅう)に似たフニューとうねるような幻想的な美しい音が出た。しかも、弦のところに「ファ」「ラ」「ソ」と音階がある。気に入った。折山さんは、

「奇麗な音でしょ。私は寂しくなると、いつも何かしら楽器を鳴らします。癒やされます。身近に音楽があると心豊かになりますよ」

 プサルタリーに触って音を出すうちに自分のものにしたくなってきた。3カ月もつかどうか。じきに飽きてしまうに違いないとは思ったが、手の届かない値段でなかったのが災いした。中古だと1万円という。

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