北区つかこうへい劇団で「飛龍伝」の舞台に立ってから12年が経過した。その間、「芝居以外のことは何もしていない」と苦笑いする。
「どんな仕事でも同じでしょうけれど、僕は演劇に“人間として育ててもらった”という感じがすごくある。エンターテインメントの世界では、その作品が成功したかどうかの明確な基準はないんですが、僕は自分の中に、三つの基準を設けています。ひとつは商業的に成功したか。ふたつめは、芸術的に成功したかどうか。これは、数字で測れるものではないので、基準はやはり玉虫色ですけれど(苦笑)。もうひとつは、それに関わった人間たちに何らかの影響や刺激を与えられたかどうか。作品によって、出演者やスタッフ、お客さんがひとつでも何かに気づけたとしたら、それはたぶん成功なんです」
ミュージカル「100万回生きたねこ」の主役の座は、オーディションで射止めた。コンテンポラリーダンスと音楽で綴られる演劇空間に入っていくことは、34歳にして、大きなチャレンジであるという。
「役者って、役そのものでも、人でも、場所でも、史実でも、知らなかったものや新しいものに出会う機会に一番恵まれた職業だと思うんです。僕は、いくつになっても、常に新しいものに出会い続けたい。今回の芝居の稽古のときみたいに、出会って、うろたえて、ビックリして、のみ込んで……。そういう刺激的な過程が、80歳になっても続いていればいいなと思いますけどね(笑)」
※週刊朝日 2015年7月31日号