「泥の河」「螢川」『優駿』『約束の冬』など数々の名作を世に残し、68歳の現在が「いちばん仕事をしている」という作家・宮本輝さん。同じく作家・林真理子さんとの対談である小説家の裏話を語った。
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宮本:僕は京都の花街(はなまち)好きなんですよ。夜あそこを歩いてると、「ああ、生きてるな」という気がする。
林:あそこで遊ぶ男の作家、渡辺淳一先生が最後ぐらいだったんじゃないですか。
宮本:今みんな収入が少なくなったし、税金で認められないしね。けど、舟橋聖一さんは愛人を必要経費として認めさせたという話がある。
林:ほんとですか。
宮本:国税庁の長官に直談判して、「私は痴情小説を書いてるので、愛人は必要経費である」と(笑)。
林:ひぇ~。
宮本:認めたその長官、偉いと思うわ。今はそういうのないですよ。昔は、舞妓が芸妓になって旦那を持つのが普通だったけど、今は旦那がいない芸妓さんが増えてますよ。
林:そうなんですか。
宮本:花街の旦那遊びというのは、京都の場合、個人商店が多いんです。貴金属店とか呉服店とか仏具店とか、京都独特の小商い。だけど蔵の中にお金はある。ところが、何もかもほじり出して税務署が取っていくようになると、奥さんに内緒のカネが使えなくなりますよね。
林:どうですか、売れてる作家として一人ぐらい。
宮本:いや、売れてない、売れてない。あのね、犬一匹飼うんやないんやからね(笑)。
林:でも、文壇から一人ぐらいお願いしますよ。
宮本:一人ぐらいいてもいいけど、村上春樹さんぐらいでないと(笑)。
※週刊朝日 2015年5月8-15日号より抜粋