作家の室井佑月氏は、安倍首相に対して批判できない世の中になりつつあるとこう危惧する。

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 さるお方が自衛隊のことを「我が軍」といった。このことについて突っ込まれ、「共同訓練に関する質疑の流れの中で答えた。相手国である他国軍との対比をイメージして自衛隊を『我が軍』と述べた。それ以上でもそれ以下でもない。自衛隊は私の軍隊とは違う」と釈明した。

 私の軍隊とは違う? わーお、注意され言葉を正したってより、そこまでは考えてないって意味じゃんか。

 思い返せば10年前、イラクに自衛隊を派遣した時のことだ。ワイドショーに出演していたあたしは、自衛隊の「派遣」を「派兵」といってしまい、方々から叱られた。

 いいたいことは別にあったので「派遣」だろうが「派兵」だろうがどうでもいいじゃんと思ったけど、謝った。「派遣」といわなければならない、強固な建前の意味を理解して。

 30代の小娘の発言と、一国の首相発言。当時、あたしの発言を非難した人はどこへいってしまったのだろうか。てか、そういうことじゃないよな。じわじわと世の中が変わってしまったんだ、そう思って恐ろしくなったよ。

 たぶん、3月27日の報道ステーション、コメンテーターとして出演した古賀茂明さんはこういったことの危険について話したかったんじゃないか。

 
 古賀さんはこの日で降板するということもあって、最後にマハトマ・ガンジーの言葉を紹介した。

「あなたの行う行動がほとんど無意味だとしても、それでもあなたは、それをやらなければならない。それはあなたが世界を変えるためではなく、あなた自身が世界によって変えられないようにするためです」

 古賀さんの最終回は、緊張感に満ちていて非常に面白かった。ひょっとして、毎回こういう回がつづくのなら、上からの圧力を受けていても、バツグンの視聴率と手堅い番組支持者で、それを跳ね返せるんじゃないかと思った。が、それを待ってはいられないのか。

 人は弱いから、強い者に巻かれていれば、自分は助かる気がしてしまう。あたしにだって、そういうところはないとはいえない。

 それでもあたしは、自分がどこで変わったかぐらいは知っておきたい。そう思っていると、案外、じわじわと変わっていく世の中に敏感になる。

 ある新聞社から、「統一地方選をどのように考えているか自由に意見してくれ」との申し込みがあった。あたしは「年末の選挙から時間が経っているし、都会との格差もあるし、反安倍政権の人がどの程度増えたか知りたい」と答えた。あたしの意見は上からの指示ということでボツになった。やっぱね、この新聞社でこういうことは4回目。だから電話がかかってきたとき、はじめにそういったじゃん。それでも記者はそんなことはない、って頑張ったんだよ。

 もし彼が今回の仕事に疑問を持ったなら、どっから会社が変わったのか、こっそり教えてあげるのに。

週刊朝日 2015年4月17日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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