外国人技能実習生をめぐるトラブルが急増している。失踪する実習生数は右肩上がりだ。法務省によると、昨年の失踪者は4581人で、前年の3567人から千人以上も増えた。1993年に、「外国人技能実習制度」が正式に創設された主な目的は、発展途上国への“技能移転”だ。
だが、実際は本来の目的を果たせていないという。民主党の石橋通宏参議院議員が憤る。
「この制度には本音と建前がある。必要なスキルを身につけて母国に戻り活躍していただくのは大事なことだが、実態はまったく違う。技能移転ではなく現場の労働力不足を低コストの実習生で補う構造になっている。最大の問題は送り出し国側で民間ブローカーが介在しうるところ。それを排除できないために、深刻な問題がなくならない」
トラブルは各地である。3月半ばに訪れた岐阜県では、縫製工場で働く中国人女性、リーさんとマーさん(ともに仮名)に会った。2人は40代後半で、3年前に中国東部から来た。作っているのはカラフルなパーティードレス。だが暗い表情でこう言うのだ。
「日本に来る前によい国と聞いたが、そうではない」
「生活の改善のために来たのに、あまりできなかった」
2人は3年前の出国時、3年間で30万元(約570万円)稼げると聞かされていた。だが、実際は、
「1日14時間働いてドレスを2着縫う。ドレスは店で2万8千円から5万円で売られる。私たちの給料は手取り月5万円から6万円」
休みもほとんどなく、1年目は年間5日、2年目は3日しか休めず、ミシンを踏みっぱなしだった。
リーさんたちは、一昨年10月にストライキを決行。縫製会社を監理する協同組合と交渉した結果、月給は15万8千円に上がったという。だがスムーズにいったわけではない。まず会社に訴え、協同組合と交渉したが進まず、一般労働組合に連絡して、ようやく本来の権利を主張することができた。本誌が縫製会社に、中国人実習生の14時間労働、5万~6万円の低給料、スト後の給与アップの事実について尋ねると、同社は顧問弁護士を通じて、「そのようなことはすべてない」と返答してきた。
彼女たちから相談を受けた岐阜一般労働組合の甄凱(けんかい)さんは言う。
「昨年は近隣の県も含めて実習生からの相談が110件あった。解決できたのは4分の1。搾取の問題はどれもほとんど同じで、訴えると解決金を提示される。それをのまない場合は、裁判になるという図式が多い」
ちなみに、リーさんたちはこの日、ストライキで得た有休を使って街まで出てきたが、喫茶店でお茶を飲むのは「3年間で初めて」だった。帰りに車で送ると、工場は山に囲まれた人里離れた場所にあった。
労働問題を多く扱う暁法律事務所(東京都)の指宿昭一弁護士のもとにも、多くの実習生が駆け込む。
「3時間半かけて来ました、と茨城県からいきなり6人の実習生が事務所に訪ねてきたこともあります。本当に彼らの力になれる場所が少ないのも問題ですね」
指宿弁護士は、技能実習生の健康面も心配する。2013年度は27人が死亡し、その死因の約3割が脳と心臓の疾患だった。
「過労死が多いことを意味していると思います。寝不足のうえストレスを抱えているからでしょう。景気がよくなると労働時間が増えるので、今後気になるところです」
※週刊朝日 2015年4月10日号より抜粋