自民党と公明党が2月20日に開いた与党協議では、自衛隊が国連安全保障理事会の決議なしで、武力を行使する有志連合への後方支援ができるようにする恒久法の概念が説明された。山崎拓(やまさき・たく)元自民党副総裁(78)は、一連の動きに警鐘を鳴らす。
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日本には「外交三原則」というものがある。一つ目は「国連中心主義」、二つ目は「日米同盟」、三つ目は「アジアの一員としての立場の堅持」です。外交政策は、この三つのバランスをとっていく必要がある。
私は三つの中では、日本がアジアの一員として極東の平和と安全に積極的な役割を果たしていくことがもっとも大事だと思います。
日米同盟も非常に重要ですが、仮に世界の警察官たるアメリカとの関係で自衛隊が海外に出る場合は、そこに国連決議が加わった場合に限るべきです。
私は2003年にイラク特別措置法をつくった時の当事者ですが、あの時も日本の要請で国連決議をとりました。アメリカ側に「国連決議は絶対の要件です」と強く主張しましたし、成立した特措法の冒頭にも「国連安保理決議を踏まえ」という文言が入っています。
今の有志連合は国連決議を踏まえないまま、「イスラム国」と戦っている。その段階で、なぜ日本は参加してしまったのでしょうか。外交は政府の専権事項とはいえ、安倍晋三首相は非常に勝手なことをやっていると思います。外交三原則の中の日米同盟堅持だけを重視してアメリカに追随していて、外交政策のバランスが悪いのです。
――安倍首相は国会で、集団的自衛権行使の具体例として、ホルムズ海峡の機雷除去を挙げ、「わが国が武力攻撃を受けた場合と同様に深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況にあたりうる」と語った。
集団的自衛権行使の要件には、日本と「密接な関係にある他国」が武力攻撃され、国の存立が脅かされることが挙げられています。
石油の輸送ルートであるホルムズ海峡に機雷がまかれれば、日本の存立が脅かされる「存立事態」だといいますが、その場合、どこが「密接な関係にある他国」に当たるのか。ホルムズ海峡を通る国は全部になってしまう。これまでの政権の常識からしたら、「密接な関係にある他国」とは安保条約を結んでいるアメリカのことを指していたのに、それが安倍政権では世界中どこでもということになってきている。「グレーゾーン事態」の議論では、政府はオーストラリアも防護対象と言いだしています。その理屈だと、今ならヨルダンも入ってしまうかもしれない。際限がなくなってしまう。
そもそも9条のある今の憲法では集団的自衛権の行使はできません。やりたいなら、憲法改正するしかない。民主主義の国なのだから是非を国民投票で問えばいい。戦後70年の外交安保政策の大転換を、閣議決定でなし崩しにやるべきではない。去年の閣議決定は間違いでした。
安倍首相は今、戦闘地域へも自衛隊を派遣しようとしている。つまり武力行使をするということ。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という9条1項の内容に踏み込んできている。
安倍首相は、自分がしていることの恐ろしさをわかっていない。「戦後以来の大改革」などと言って、タブーを破った快感に酔いしれて、個人の名誉心でやっているのです。
(構成 本誌・小泉耕平、牧野めぐみ)
※週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋