インターネットの普及やグローバル化により、今や大企業が必ずしも安泰とは言えない。そんな環境変化を逆手にとって、新しい市場を切り拓く“スモールビジネス”に大きな可能性が出てきた。

 東京都八王子市の倉庫の一室で、13年7月に「SIシナジーテクノロジー」という会社が産声を上げた。志村秀幸社長(50)以下9人で、インターネットの次の時代を拓く肝となる技術の事業化を目的に旗揚げした。

 志村さんは東芝日野工場の技術主幹だったが、工場閉鎖に伴い47歳で退職した。在職中は通信システムの開発に携わり、銀行オンラインシステム、新聞編集システム、高速道路やダムの管制システムなどを手掛けた。業務用監視カメラシステムの開発では全東芝社長表彰も受けている。

「優秀なエンジニアは他にもいっぱいいますから、切るときはばっさりやるしかないのです」と、大企業で職を失ったことを、志村さんは割り切っている。

 東芝を退職後、関連会社を経て山梨県の取引先で常務事業開発本部長として勤めたが、そこでのリストラを機に同社の開発スタッフ8人と独立した。

 東芝の開発受託をやりながら、早速、温めていた構想を具体化した。様々な業務用システムの情報をインターネットにつなぐのに必要な、いわば交換機に当たる回路をワンチップにした部品を開発したのである。

 例えば、ダムの監視システムならば、その信号をインターネットで流すには専用の手順を記述したソフトウェアを開発しなければならない。しかし志村さんの会社が開発した約1万円(サンプル価格)の「FPGAボード」を通せば、専用のソフトウェアがなくても、一発でインターネットにつながるのだ。

 これが面白いのは、今後注目のIoT(インターネット・オブ・シングス)時代に有用な技術だからだ。

 IoTは初耳という人が多いかもしれない。インターネットといえば、普通は人がパソコンやスマホを使って情報をやり取りすることを思い浮かべるが、IoTではモノとモノが人を介さずに直接つながる。

 例えば、こんなイメージである。複数の工場の操業状態を、設備に付けたセンサーが常時監視して、データをインターネットでセンターに送る。その膨大な情報を人工知能が解析して、全体として最も効率的な生産指示を割り出すとともに、不具合を検出すれば各工場に即時に送信する。

 人工知能や自動化の進歩に伴って、IoTは工場や家庭、社会インフラなどあらゆる分野に広がる可能性があるのだ。

「FPGAボード」は、たとえて言えば、IoTの“交換機”の役割を担う可能性があるわけだ。同社は、首都圏産業活性化協会が東京多摩地域、埼玉南西部、神奈川中央部の革新的企業を対象に認定する「TAMAブランド企業」に昨年選ばれた。

「天の時、地の利、人の和といいますが、創業したのはまさに天の時でした。みんなが付いてきてくれましたし」と、志村さんの表情はいたって明るい。

「やりたいことがたくさんあって、的を絞り込みにくいのが悩みです」

 スモールビジネスは、夢を追求するのに何の制約もない。少子高齢化で国内市場は縮む一方という見方がある。リスクに慎重な大企業は特に、新たな市場を開発するのに消極的な姿勢が目立つ。大企業に足りないのは志村さんのような志ではないのか。

週刊朝日 2015年2月13日号より抜粋