チャラン・ポ・ランタン『ふたえの螺旋』(LNCM1024/Mastard Records)2013年4月13日発売
チャラン・ポ・ランタン
『ふたえの螺旋』(LNCM1024/Mastard Records)
2013年4月13日発売

 まずこのアルバム・ジャケットを見て思い出したのは、「頭倒さに手を垂れて・・・ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」。他でもない、中原中也の詩「サーカス」の、あの世界。

 西洋サーカスの華やかさと比べてみても、どこかジメっとして暗澹たる気分にさえさせられてしまう、中也のサーカスの詩片。平たく言えば、昭和初期の見世物小屋的な哀調といったところだろうか。いずれにせよ、そうした日本古来の曲馬・軽業文化の光と影にも思わず好奇の目を向けたくなる、実に“気がかり”なジャケットだ。
 空中ブランコには、異人さんにさらわれてきたかのような若い身空がふたり手を垂れて、一台のアコーディオンをつかまえる。そんな絵ヅラにどことなく胸騒ぎを憶えたのは、きっとぼくだけじゃないはず・・・。

 さて、今回ご紹介するのは、ヴォーカル“もも”(19)とアコーディオン奏者“小春”(24)の姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタン、その最新アルバム『ふたえの螺旋』。勿論、ジャケットでゆあーんと垂れるふたりは本人たちで、前2作のミニ・アルバム『つがいの歯車』、『たがいの鍵穴』から地続きの「命綱なし、これが私のサーカス」というテーマを肢体を張ってにべなく表現している。

 もはやジャケット自体がひとつのハイライトでもあるのだが、肝心要の音の方はというと、アコーディオンを主旋楽器に、ある種呆けてしまうほどノスタルジックな色彩の音符が舞い遊ぶ、それこそサーカスや見世物小屋から転がり流れるジンタ(明治・大正の吹奏楽の俗称)、あの軽妙なリズムとメロディにひとしきり陶然とさせられる感じにほど近い。

 がしかし、それだけじゃない。東欧のジプシー、クレズマー、フランスのシャンソン、ミュゼット、キューバのルンバ、アイルランドに代表されるケルト音楽、はては明治時代に流行した壮士演歌のような俗謡・・・何から何までがおもちゃ箱をひっくり返したかのように溢れ出す景気のよさもある。この節操ない多国籍ぶりが、椎名林檎、EGO-WRAPPIN’などに代表される所謂「ネオ昭和歌謡的」なものとはちと毛色を違えるところか。

 そのうえ、ここに乗るももの謡(うた)の世界がまたドキドキもの。子猫みたいに甘えた口ぶりで陽気にハジける一方で、巻き舌にコブシ回して人生胸突き八丁を嘲笑い、深くにがにがしい私怨のような言葉つきで浮世の種々相をチラリチラリとのぞかせる。お嬢ちゃん一体いくつだよ? まこと乙女の仕業にゃ思えない! と、芸の幅広さばかりか、頼もしいまでのふてぶてしさやしたたかさに慄きっぱなしだ。いやいや、これが心地よい毒ってやつなのかもしれないね。

 前2作と、その合い間フジロックをはじめとする多数のフェス出演などで尋常ならざる評判を受けて届けられる約3年ぶりの“フルコース”アルバム『ふたえの螺旋』。すでにその奇警な毒に当たって悶悦されている方にはこれ以上ない朗報なのは言うまでもない。同時にここで初めて彼女たちの音楽に触れる方にとっても、幸か不幸かきっと忘れられない体験になることは間違いないだろう。マリアかゲリラか道化師か。チャラン・ポ・ランタン、ふたりぽっちのサーカスに、さぁさぁお立会い!