安部首相のキレ芸は劣等感の裏返しなのか? (c)朝日新聞社 @@写禁
安部首相のキレ芸は劣等感の裏返しなのか? (c)朝日新聞社 @@写禁

 案の定、自民党の大勝だった衆院選挙。安倍晋三首相(60)は今後、掲げた政策は「全て信認された」と強気にアクセルを踏み込む。安倍1強体制は2015年も盤石なのか? 野党各党に選挙戦略はあったのか? 東大大学院教授(社会経済学)の松原隆一郎氏と放送大教授(政治学)の御厨(みくりや)貴氏が、鋭く迫った。

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松原:選挙戦を振り返ると、今回は「アベノミクス選挙」と呼ばれて、小泉純一郎元首相のときの郵政選挙と比較されました。でも、この二つは似ているようで違う。小泉さんは、郵政改革という短期的な一つの政治課題だけに絞って選挙を仕掛けて、圧勝しました。一方の安倍さんは、「この道しかない」と言って2年やったアベノミクスの継続を訴えましたが、原発や社会保障政策など、個別の政策はほとんど争点になりませんでした。

御厨:アベノミクスで「景気が良くなっている」と繰り返して、でもそれが「実感として見えていない」と話す。だから「これを継続しよう」。有権者にうまく期待感を持たせることに成功しました。

松原:アベノミクスの成果として「雇用が100万人増えた」など、数字を次々に出していました。

御厨:それに対する野党の反論は情けない。「行きすぎた円安はよくない」とか反論しても、有権者には伝わりませんよ。民主党は、下野してから2年間、何もしていなかったということです。

松原:雇用、賃金、女性政策など、投票日までに次々にテーマを変えて、争点をずらしていった。国民に深く考える時間を与えなかった。選挙戦略としては成功でしたね。

御厨:安倍さんは自民党内に対しても、増税延期反対派をものすごいスピードで切り崩した。谷垣禎一幹事長なんか、消費増税の合意を民主党とまとめた当事者なのに、コロッと転がってしまった。野田毅党税調会長も、選挙での公認を外すと脅かされると、黙ってしまった。織田信長が今川義元を破った「桶狭間の戦い」のように、奇襲作戦で相手が反撃の態勢を整える時間を与えなかった。

松原:それにしても、安倍さんは選挙戦では何度もキレてましたね。開票日の選挙特番では、日テレのキャスターからの質問にイヤホンを外して、持論をまくしたてていました。一国の首相が公の場所でキレることはよくないと思うけど、安倍さんはすぐに怒りますね。

御厨:安倍さんは、自分が正しいと考えていることをメディアに上手に説明できない人なんですよ。私が第1次安倍政権のときにしたインタビューでも、「自分は小泉さんのようにはしゃべれない」と話していた。被害妄想、コンプレックスがあるんでしょうね。

松原:小泉さんはテレビ向けの政治家だったけど、安倍さんはツイッターやフェイスブックで訴えるインターネットの人と感じます。

御厨:感情的になればなるほど、盛り上がる。

松原:感情を表に出して好きなことを言って、賛否両論が入り乱れて“炎上”しても気にしない。キレ芸。その割には支持率が下がることもない。橋下徹大阪市長と同じタイプです。

御厨:安倍さんにとって今回の解散は、自分のやってきたことの自己確認だった。選挙結果がよかったから、正しいことをしてきたと思っているのでしょう。

週刊朝日 2015年1月2‐9日号より抜粋