元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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会社員時代に東京に転勤となったとき、愛車を泣く泣く処分した。東京で車を所有するのはハイコストすぎるのだ。ちなみに愛車は雨漏りのする中古オープンカーで下取り価格はゼロ円……いろんな意味で青春だったなあ。あれから8年。運転機会はほぼゼロだが免許は更新を続け、先日もお知らせが来て手続きに。
それだけのこと、だったはずなのだ。
いや途中までは普通だったのです。免許センターは超効率的マニュアルが満ち満ちて、係の方のテキパキした指示で一切マゴつくことなく次々と窓口を巡る。なるほどこれぞ日本品質じゃのぅなどと余裕こいていたら、「次は適性検査です」と言われてハッと我に返った。
適性検査……って、それはまさかの視力検査?
私は瞬時に怯えた。最近の目の見えなさったらヤバいのだ。老眼と同時に乱視が進み、古い文庫本など開いただけでめまいがして瞬時に閉じる。それが高じて、最近は細かいものを判別する努力そのものをやめた。これからは大きいものだけを見て生きていく私……などという個人的決意は、このような公的な場では全く通用しないのである。