「青春のシンボル」と言われるニキビだが、近年、成人後に悩まされている人も増えているという。これまで抗菌剤以外は保険適用の治療薬はなく、自由診療のみだったが、塗り薬「アダパレン」が保険適用になり、治療に新たな選択肢が増えた。

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 ニキビは日本人の9割以上が経験すると推測されている。毛穴に皮脂がたまった「面皰(以下、白ニキビ)」から始まり、ここにアクネ菌などの細菌が増えて炎症を起こすと「紅色丘疹(または炎症性皮疹、以下、赤ニキビ)」となる。

 発症しやすい年代は二つに分かれる。皮脂分泌が活発で、性の成熟に伴ってできる中高生のニキビと、20代女性を中心とした「思春期後痤瘡」、いわゆる「大人ニキビ」だ。明和病院皮膚科部長の黒川一郎医師は、こう話す。

「最近、大人ニキビに悩む女性が増えていると感じます。特に仕事が忙しい女性に多く、睡眠不足、不規則な食生活、便秘、ストレスなどがニキビを悪化させているようです」

 兵庫県の花村佳代さん(仮名・29歳)は2011年から急に頬に広がった赤ニキビに悩まされていた。3カ月ほど近所の皮膚科で治療を受けたが改善せず、黒川医師を訪ねた。

「花村さんのニキビの状態は中等度でしたが、色素沈着が目立つのをかなり気にしていて、受診当初は暗い表情でした」(黒川医師)

 中高生のニキビでも、大人ニキビでも、最初は白ニキビから始まり、放置すれば赤ニキビに転じる。毛根を包む「毛包」の壁が赤ニキビで破れると、治った後も、瘢痕(以下、ニキビ痕)や色素沈着が起こることが多い。花村さんは、この症状に悩まされていた。

 黒川医師は「アダパレン(商品名ディフェリン)」と抗菌剤を処方した。

「ニキビの保険治療の選択肢は長らく抗菌剤くらいしかありませんでしたが、アダパレンが登場したことで新しい治療の選択肢ができました」(同)

 アダパレンは白ニキビ、赤ニキビのどちらにも使える。従来の抗菌剤は、細菌を殺して炎症を抑えたが、アダパレンは、抗菌剤では効果がない「毛穴のつまり」を取り除く効果があるとされている。08年に日本で初めて「尋常性痤瘡治療ガイドライン」(日本皮膚科学会)ができ、この薬は、使用を強く推奨する「推奨度A」と記されている。

 花村さんは、就寝前に顔全体に薬を塗り、特に炎症の強い初期のうちは抗アレルギー剤も併用した。しかし、2カ月が経過しても劇的な改善はみられなかった。

「アダパレンは、効果が出るまでに時間がかかります。また、白ニキビや、新しくニキビができることを抑える効果はありますが、悪化したニキビには効きづらいこともあります」(同)

 落ち込む花村さんに、黒川医師は同院内で開設している「にきびセンター」の受診をすすめた。同センターでの治療の中心は、自費診療のケミカルピーリングとイオントフォレーシス(イオン導入)だ。

 ケミカルピーリングは毛穴を覆う皮膚の角質を軟化させるグリコール酸を塗り、角質をはがして毛穴のつまりをなくし、皮脂を出しやすくするもの。効果としてはアダパレンと同様だが、アダパレンが効かない人にも効果があるとされ、即効性も期待できる治療法だ。イオントフォレーシスは、皮膚に吸収されにくいビタミンC、ビタミンA、ビタミンEなどを、電気の力で吸収させる技術で、肌の色素沈着をはじめ、角化や、皮脂が酸化した過酸化脂質を防ぐ効果がある。

 さらに「チームアクネ」と呼ばれる看護師・薬剤師・管理栄養士ら多職種のスタッフにより、洗顔法の指導、薬の適切な使い方指導などもおこなわれた。洗顔指導では、院内で花村さんがいつものように洗顔して見せると、看護師は「洗顔料の泡立て方が不十分で、強くこすりすぎ」とアドバイス。こすりすぎは炎症を悪化させ、色素沈着を起こす原因になると指摘した。薬剤師は、薬の使い方を詳細に指導し、

「アダパレンは、ゲルを指先に2.5センチ程度出し、ニキビができている部分だけでなく、顔面全体に塗ることがポイント。皮膚の乾燥などの軽い副作用が出ることもあるので、保湿剤をいっしょに使う場合もある」

 といった注意点も伝えた。

 花村さんはアダパレンの使用を続けながら、月に1回、「にきびセンター」での自費診療を続けた。4カ月経過したころ、花村さんの頬からは赤いニキビと色素沈着が消え、表情には明るさが戻った。

週刊朝日  2014年12月5日号