中国の電子商取引最大手、アリババグループが9月19日、ニューヨーク証券取引所に上場し、25兆円という時価総額をたたき出して、話題となっている。

 現地の市場関係者は驚きを隠せない。

「同社の株式を大量保有したのは、世界最大規模の機関投資家ばかり。これは一流の投資家や優れたアナリストからお墨付きを得たということ。新規株式公開(IPO)では、異例のケースです」

 アリババの創業者は中国人のジャック・マー(馬雲)氏(49)。一体、どんな人物か。

 マー氏は商人の町・杭州市出身の英語教師だった。大学卒業後に、翻訳会社、小売業、中国版イエローページなど40社近くも起業と失敗を重ねたが、1995年に渡米してインターネットと出会い、99年に中国でアリババを設立した。

 B to B(企業間取引)の「アリババ・ドットコム」や、個人向けネット通販サイト「タオバオ(淘宝網)」の展開で急成長を遂げ、20兆円近い規模の中国のネット通販市場で約8割のシェアを握る。大企業より中小企業や顧客に寄り添う姿勢のマー氏は「庶民のヒーロー」的存在だという。

「それまで小売業を始めるには立地が問題で、当局との関係性が必須だった。しかし、ネットではその問題はない。当局と企業の構造を壊したのがアリババでした」(コンサルタント・寺村英雄氏)

「ネットショッピングにつきものだった物流トラブルや詐欺の問題をひとつずつ改善したのも他社と違っていた」(ジャーナリスト・奥窪優木氏)

 さらにアリババは中国で強固な既得権益のひとつである銀行業務にも風穴を開けた。アリババの収益の基盤になっているオンライン決済サービス「アリペイ(支付宝)」は、顧客から預かった資金を高利で運用する「余額宝」を昨年スタートし、8兆円もの資金を集めた。銀行の普通預金から余額宝に資金を移した人も多く、銀行業界は目の敵にしたという。今年2月には国営中央テレビ局のコメンテーターが「吸血鬼」と名指しで非難したほどだ。

 慶応義塾大学の小幡績准教授はこう言う。

「とはいえ中国政府とうまく付き合えなければ、ここまで事業拡大できなかったはず。今回の件で明らかになったのは、対中国戦略を勝ち抜くには、いかに当局とうまく付き合うかが問われている」

 日本も例外ではない。

週刊朝日  2014年10月10日号