プロ野球・日本ハムの大谷翔平選手の二刀流が注目されるが、仕事をこなしながら、スポーツをトップレベルで続ける──。いわば、人生を二刀流で生きる人々がいる。
ビーチバレーボールの公式戦・シリーズA(グレードI)に参戦している田中麻衣選手(31)は普段、ANAのCA(キャビン・アテンダント)として働いている。
短大卒業後、同社に就職した田中は27歳のとき、同僚の誘いでビーチバレーと出会う。小・中・高とインドアでバレーボールをしていたのにビーチではあまりにもうまくできず、「悔しくて、恥ずかしかった」。
そこで生来の負けず嫌いが顔を出し、熱心に練習するうちに楽しくなり、わずか3年で国内最高レベルの大会に本格参戦となった。
CAの勤務はシフト制。休みは月に10日前後だが不定期で、それを融通して練習し、試合に出る。試合の前々日に北京往復で、試合が終わった翌日にはロス……なんて日程でも普段と変わらぬサービスを提供しているのだ。仕事が休みならビーチ、という生活だから、「疲れていると思ったら無理しない」のが田中のルール。疲れを残さないため、練習後はシャワーだけで済まさずに湯船に入り、肩や腰のケアのために整体も欠かさない。そんな二刀流生活で、メリハリを意識するようになったという。
「たとえば1週間、ずっとビーチバレーをしていたら、いくら好きでも気が滅入るのではと思うんです。逆に、限られた時間内でやるからできるというか……」
ところで、CAといえば憧れの職業だが、彼女たちにも悩みはある。たとえば数日間の海外フライトから帰国した翌日。時差もあって昼過ぎ、あるいは夕方まで寝てしまい、時間を有効に使えないのが現実。そこで、仕事以外に何か打ち込むもの、趣味を見つけたい、と望む声も多い。そんな彼女たちにとって田中の挑戦は注目に値するらしく、よく様子を聞かれるという。
「確かに海外から帰ってきた翌朝、早く起きるのはつらいですね。だけど、やってみると意外と調子良いんです。その日の夜の疲労度は、ゆっくり寝たときと変わらないと思います。結果として一日有意義に過ごすことができて、良かったなぁ、と思えて、精神的にはプラスですよ」
ビーチでの競技だけに日焼け対策は万全だが、それでも日焼けしてしまうこともある。そんな苦労話をきっかけに同僚から応援されることが多いらしい。
「私は、これからもスポーツに関わっていきたいと思っています。そして、この仕事、この会社、ビーチバレー……相乗効果で何か生まれないかなと私自身が一番期待しているんですよ」
(ジャーナリスト・渡辺勘郎)
※週刊朝日 2014年8月29日号