上海福喜食品の期限切れ鶏肉問題で大きな波紋が起きている中国、これまでも何度か発覚している中国製食品をめぐるトラブルはあった。だが、今回の事件はこれまでのケースとは少し違う側面もあるようだ。

 上海のファストフード会社のマーケティング部門で働く20歳代の女性は、こう嘆く。

「上海福喜食品は、グローバル企業であり、安全基準がしっかりしていることから取引をはじめました。こんなことになるとは思わなかった」

 上海福喜食品の親会社OSIグループ(本社・シカゴ)は、1909年創業で、世界17カ国に約60拠点を持つ。米経済誌フォーブスによると13年の売上高は57億ドル(5700億円)だ。

 上海在住のライター、杜丘由宇さんは、

「世界的に信用を得ている外資系企業が組織的に起こしたトラブルだという点がこれまでと大きく異なり、地元でもショックが広がっています」

 日々の工場運営は、現地の従業員が担っているせいもあるだろう。

 スイカに甘い人工添加物を注射したり、果物につやを出すために毒性のワックスで磨いたり──。まるで冗談のような食品偽装だが、中国の富裕層、中流層が自国産食品・食材の安全性を信用できない理由だ。中国製食品への不安の高まりから、中国国内のスーパーや小売店では、外資系工場で生産された食品を意識的に買い求める人も少なくないという。

 多摩大大学院の沈才彬(シンサイヒン)客員教授(中国経済)は、こう語る。

「今回の事件で外資系企業は安全だという神話は崩れました。いま中国では、裕福な人々は外国に脱出しています。しかし、貧しい人びとは、中国の負の社会の犠牲になる。こうした国民の鬱積(うっせき)した不満が、また爆発して社会不安につながるのではないかと心配です」

 今回の事件は「氷山の一角」とみる識者は多い。新たな食品汚染問題が、再び起きる可能性は高いのだろうか。

週刊朝日  2014年8月8日号より抜粋