認知症治療にいまだ光が見えないなか、多くの専門家がいま「予防」に注目している。
福岡県久山町の地域住人を観察した日本最大の疫学研究「久山町研究」でも、認知症の予防が期待できる食品について調べている。その結果が、今年4月の論文に掲載された。この調査の特徴は、食品や栄養素ではなく、「食生活」を対象にしたところ。この研究に関わった九州大学大学院環境医学の清原裕教授は言う。
「大豆・大豆製品、野菜、海藻類を増やし、米とアルコールを減らす食生活が、認知症の発症リスクを大幅に下げることがわかりました。具体的にいうと、この『予防食』をとっている群は、とっていない群よりも3割以上も認知症の発症リスクが下がっていたのです」
この調査は、認知症のない60歳以上の千人以上を15年間追跡したものだ。最初にこの人たちの食事内容を調べて、追跡期間中の認知症発症との関係を調べた。
「魚や果物と認知症の発症のリスクについては、強い関係はみられませんでしたが、たくさんとったほうがよい傾向がありました。一方、肉や麺類、塩分は関係がみられませんでした」(清原教授)
「これは、“米を食べるな”という意味ではありません。“同じカロリーのなかで、ご飯の量を減らし、大豆や大豆製品、野菜、海藻など予防効果のある食品を増やしたほうがいい”ということです。ご飯でおなかがいっぱいになってしまうと、ほかの食品がとれませんからね」
さらに、この予防食に、もう一つ加えたほうがいい食品がある。牛乳・乳製品だ。これも久山町研究で、認知症予防が期待できる可能性が明らかになった。
牛乳や乳製品については、海外の地中海食(果物、野菜、穀物、豆類をとり、油はオリーブオイルを使用。肉や卵は少量とるという地中海周辺地域の伝統食)の有用性を報告するいくつかの研究では「控えたほうがいい」とされている。ところが、今回はとったほうがいいという結果が出た。
これについて清原教授は「日本人は欧米人に比べて、牛乳や乳製品の摂取量がもともと少ない。もう少しとってもいいのではないか」と分析する。
ここまでは「とるとよい食」をみてきたが、逆に「食べると認知症になりやすいもの」はあるのだろうか。
群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授によると、牛肉や豚肉、そのアブラに含まれる「飽和脂肪酸」や「n-6系多価不飽和脂肪酸」、マーガリンやショートニングで使われる「トランス脂肪酸」などは、認知症のリスクを上げる可能性があるという。
「ただ、健康維持のためには、これらの脂質を一定量はとったほうがいいでしょう。肉はまったく食べない、という偏った食事をするのではなく、バランスのいい食生活を心掛けることが重要です」(山口教授)
※週刊朝日 2014年7月11日号より抜粋
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