衆・参のねじれ解消で迎えた通常国会。過去最大約96兆円の本予算はスピード成立し、提出法案の成立率も9割を超えるなど、安倍自民党の強さばかりが目に付いたが、その評価は。放送大教授(政治学)の御厨貴氏と東大教授(社会経済学)松原隆一郎氏が対談した。
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御厨:安倍政権はこの10年の政権の中では一番いいですよ。いいというのは、政権が機能している。
松原:やっている内容は別にして、政治としては機能してますよね。通常国会も会心の出来だったでしょう。ねじれが解消して補正予算も本予算もスピード成立し、消費増税のショックを和らげる景気対策も思いどおりになった。それまで全く言わなかった集団的自衛権にも一気に取りかかった。内閣が提出した法案の成立率は97.5%。首相本人もかなり充実しているんじゃないでしょうか。
御厨:ねじれのときには野党に加えて、自民党内にも「国会の調整役だ」と言う怪しいおじさん議員がいっぱいいて、より運営を難しくさせていた。でも今はそういう古老がいなくなり、新しい顔ぶればかり。よくわかっていないから、官邸主導でどんどん物事を進められる。野党は分裂したり党首を引きずり下ろそうとしたりで、機能しているのは共産、生活、社民ぐらい。そりゃ、楽ですよ。
松原:閣僚の失言も、最近は麻生太郎副総理(73)、石原伸晃環境相(57)と続きましたが、致命的なのは出ませんでした。
御厨:安倍(晋三)さん(59)の“お友達大臣”は右寄りな人が多いんだけれども、彼らは自制できていましたね。安倍さん自身もどんなに挑発されても、自己コントロールしていた。
松原:自制できなかったのはNHKの籾井勝人会長(71)ぐらい(笑)。まあ、政治家ではないので、致命傷にならなかった。
御厨:閣僚のスキャンダルも、官邸でうまく隠しているんだと思う。あと安倍さんについて言えば、昨年12月に反対の声が多かった特定秘密保護法を成立させたことが大きかった。ここで議論は尽くしたと見せながら、最後は数で押し切る手法を学んだ。その経験があるから、今国会に自信満々で臨めたと思う。
松原:党内から足を引っ張られることもありませんでした。
御厨:やはり3年3カ月、下野したことの意味が大きいと思います。彼らは絶対に野党になりたくないと思っている。だから少々面白くないことがあっても「総理の足を引っ張るな」なんですよ。
※週刊朝日 2014年7月11日号より抜粋