文筆家の北原みのり氏は、先日見た映画に女が男を買うシーンがあり「売春」のイメージが変わったという。
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「売春は最古の職業」と言う人がいる。というか、そういうことを言う人って、たくさんいる。聞いたことありませんか? 「売春・買春、昔からみんなやってる! だからもっと堂々と活用しましょう」とかさ。
古代ギリシャでは~、ローマ帝国では~云々言われると反論しにくいし、セックスとお金を交換して生活してきた人は昔からいただろうし。でも、なんていうか、現代日本で買春をしているオヤジが、「売春は最古の職業だから」とか言ってるのって、とてもイヤ。
たった数千円でホテルに女性を呼んで、気にくわなければ「チェンジ」とか言えるくらいに、今の日本のセックス産業は、買い手市場。女性の貧困は深刻で、セックス産業に「行かざるを得ない」日常を生きている女性は珍しくない。そういう現代日本の苛烈なセックスワークを、ギリシャの神殿で行われたとか言われる「売春」と、同列に語らないで欲しいんだよね。
ということを常々思っていたのだけれど、先日見た映画『ポンペイ』に、古代ローマの売春シーンが描かれていて、目から鱗だった。
映画では、ポンペイの街が、噴火、津波で一瞬にして死の街になる直前の日常が描かれている。民は競技場に集い、グラディエイターの決闘に歓声をあげる。男たちはいかに権力に取り入るか画策している。その中で、上流階級の女たちが、筋骨隆々のグラディエイターを選び、買うシーンが出てくるのだ。つまりは、それがポンペイの「日常」として描かれていた。
半裸のグラディエイターがパーティ会場で一列に並ばされ、裕福な中年女性が「お尻を見せなさい」と口元を緩めながら選ぶ。男たちの太い腕、きゅっとあがったお尻、しかも主役のキット・ハリントンの甘いマスク……。ああ、選びたい、ああこんな風に「お尻も確認させて」とか言ってみたい! しかもグラディエイターたちは「このオツトメ、悪いもんじゃない」みたいなことを言ってる!
というわけで、「最古の職業」、女も買ってた、となるとイメージがガラッと変わり前向きになる身勝手な自分に反省中です。
※週刊朝日 2014年6月27日号