関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを求めた住民の訴えが5月21日、福井地裁判決で認められた。福島原発事故以降では、初の住民勝訴の画期的な判決だが、当事者の間では判決前にすでに決着が着いていたようだ。
「こちらが求めた大飯原発の基準地震動に対する釈明に関電は期日までに応じず、証拠も出しませんでした。業を煮やした裁判官が、『被告の態度いかんでは結審する』と言い、3月の結審が決まったのです。そのとき、勝訴を確信しました」(原告弁護団長の佐藤辰弥氏)
今回の裁判で争点の一つとなった「基準地震動」は安全対策の基準となる地震の揺れの強さを想定するもので、関電は「700ガル」とした。だが、これを超える地震がこの10年間に5回も起きている現状がある。判決はこの点を「基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは、根拠のない楽観的見通しにすぎない」と厳しく指摘している。
この裁判を見続けてきた判事経験のある弁護士も、住民勝訴を予測していた。
「裁判の後半になって裁判官が原告側の主張や立証を制限しているのを見て、これは勝たせるつもりだと感じました。もし原告を敗訴させるなら、主張を制限せず言いたいことを十分に言わせるものなのです」
当の関電側も負けを見越していたようだ。判決言い渡しの法廷に被告側は弁護士を含め誰一人として姿を見せず、被告側空席という異様な判決の光景となった。
欠席理由について関電広報部は、「裁判所の指定した期日に代理人の都合が合わなかったから」と弁明する。だが、判決日は双方の合意の下で決められているのである。
追い詰められた被告側のせめてもの抵抗なのかもしれないが、佐藤氏はこうした関電側の態度を、「法廷軽視以外の何ものでもない」と非難する。
今回の運転差し止め判決が、他の原発裁判にも影響を及ぼすのだろうか。
「原発と人権ネットワーク」によると、現在国内の16の原発や再処理工場などで、26件の差し止め訴訟が行われている。福島原発事故の責任を問うものも含めると、原発訴訟は全部で50件近くに上る。
前出の元判事の弁護士はこう指摘する。
「裁判官は、自分以外の裁判官がどう判断するかにとても関心がある。みんな今回の判決を参考にするだろうから、他の原発訴訟にも影響をもたらすでしょう」
関電は控訴したため、まだ判決は確定していないが、裁判官心理に与えたインパクトは小さくないようだ。
「司法は生きていた」と歓声を上げた原告団の声は、上級審の裁判官にも届くのだろうか。
※週刊朝日 2014年6月6日号