「あまちゃん」の舞台でもある岩手県久慈市の久慈港を、地球の裏側から60センチの津波が襲った。港から約1キロの距離で食堂を営む男性(75)はこう振り返る。
「防災無線からサイレンが聞こえて、東日本大震災を思い出して怖かった。注意報が解除されるまで時間がかかったけど、いつでも避難できるように、家の中で準備だけはしていた」
日本時間2日午前8時46分ごろ、南米チリ北部で発生したマグニチュード8.2の巨大地震。発生から約24時間後、津波は1万5千キロ以上離れた日本にまで押し寄せた。
今回、気象庁は津波の高さがはっきりしない段階で「3日午前3時ごろに津波注意報を出す予定」と発表して注意を呼びかけるという、異例の対応をみせた。結局、津波は久慈での60センチが最大で目立った被害はなかったものの、気象庁が遠く地球の裏側の地震をここまで警戒するのには理由がある。チリ付近では同様の地震が過去に何度も起き、日本は津波の被害を受けているのだ。1960年のチリ地震では、三陸海岸沿岸を中心に約3メートルの津波が襲来し、岩手県大船渡市で53人が犠牲になるという悲劇を生んだ。最近も、2010年のチリ地震の際、高知県須崎港で最大1.3メートルの津波を観測している。
東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授(津波工学)は、世界で起こる津波の危険性をこう指摘する。
「日本は島国。海でつながっている以上、世界中どこからでも津波がくるリスクがあります。チリのような遠方で発生した津波も、太平洋には大きな障害物がないので日本まで到達し得る。しかも太平洋の北端がベーリング海峡で狭まっているため、日本付近に集まった津波は圧縮されて高い波になる傾向が強いのです」
それでも、やはり近海で発生した津波のほうがずっと恐ろしいようだ。東京大学地震研究所の古村孝志教授はこう話す。
「今回は震源地と距離が離れていたので、避難準備に時間をかけることができた。しかし、30年以内に70%の確率で起こるといわれている南海トラフ巨大地震が発生した場合、早くて5分ほどで津波が到達する地域もある。今後は未明に津波がくることなども想定して、日中以外の時間帯にも避難訓練を行うべきなのです」
安倍政権は原発再稼働へ突き進んでいるが、天変地異のリスクは、地球の裏側にも潜んでいるのだ。
※週刊朝日 2014年4月18日号