マルハニチロホールディングス(東京)の子会社「アクリフーズ」が製造した冷凍食品から農薬「マラチオン」が検出された問題は、1月25日、同社の契約社員、阿部利樹容疑者(49)が偽計業務妨害の疑いで逮捕されるという急展開を迎えた。いったい、犯行の目的は何だったのか。
一連の問題の発端は、2013年11月13日。アクリ社の群馬工場で製造されたミックスピザから「石油・機械油のようなにおいがする」と苦情が寄せられたことだ。その後も同様の苦情が続いたことから、同社が調べたところ、残留農薬基準値を大きく上回るマラチオンが検出された。
商品を食べて、嘔吐(おうと)や下痢などを訴える人はこれまで2800人を超え、同社は94品目、640万袋を自主回収の対象とした。一方で、同社は昨年12月末に群馬県警にも相談していた。
県警は店頭での混入は考えにくいとみて、工場を実況見分。製造工程を詳細に調べるとともに、問題となった商品が製造された昨年10月3日~11月6日の勤務状況などから、阿部容疑者を絞り込んだ。
阿部容疑者は、工場のある群馬県大泉町内の2階建ての一軒家に住んでいた。近所の人の話によると、妻と、成人して働きに出ている息子と3人で暮らしていた。家計が苦しかったのか、朝も新聞配達をしていたという。ワゴン車のほかに、ハンドル部分にスピーカーのついた青色のバイクを持っていた。
「ひとことで言って、変わった人。バイクを改造しているのか、ボンボンとうるさいエンジン音をさせながら走っていた」
「仮面ライダーやウルトラマンのような昭和のヒーローものの音楽を鳴らしながら走っていることもあった」(いずれも近所の主婦)
別の住民は、こう話す。
「怒りっぽくて、ズケズケとものを言うタイプ。新聞配達中にバイクで通行人と接触したら、『お前が悪い』と怒鳴っていました」
アクリ社で契約社員として働き始めたのは、05年10月。一貫して、ピザの製造ラインで生地の生成を担当していたという。
同僚たちの印象は、近所での評判と重なる。
「普段は冗談を言うこともあるけど、気が短く、ちょっとしたことで『コラッ』と言ってキレていました」
ここ数年、アクリ社の給料は減っていたようで、
「去年の11月ぐらいから機嫌が悪かった。キレやすいやつだから、何かやるかもしれないと心配していたんですけど……」(同)
阿部容疑者の逮捕前の行動は“お粗末”だった。捜査の初期段階で、他の従業員とともに県警の任意聴取を一度受け、その後も通常通りに勤務を続けていたが、捜査の手が迫っていることを感じたのか、1月14日午後の勤務後から行方不明に。妻が捜索願を出していた。
発見されたのは10日後の24日夜。埼玉県幸手市内の駐車場で座り込んでいるところを「不審者がいる」と110番通報され、駆けつけた埼玉県警の警察官に保護された。
保護された時は、「群馬の家に帰りたい」と弱々しく漏らし、体調不良も訴えていたという。埼玉県警が妻に引き渡し、翌25日午後、群馬県警が自宅から任意同行。逮捕に至った。
調べに対し、「記憶にない」などと容疑を否認している阿部容疑者。なぜ、何のために――。今後の供述に注目が集まる。
※週刊朝日 2014年2月7日号