今できる役が、やるべき役。鈴木京香さんはいつもそう思いながら芝居に取り組んでいる。ジャン・コクトー作「声」は、一人の女性が、電話の向こう側にいるかつての恋人に語りかけるという構成のモノローグ劇だ。演出の三谷幸喜さんと舞台でタッグを組むのは、三谷さんが脚本を手がけた1996年の「巌流島」以来、17年ぶりとなる。

「2年前に脚本を読んで、素直に“面白い、やってみたいなぁ”と思いました。コクトーだから芸術的で難解な作品じゃないか、って戸惑われるかたもいらっしゃるかもしれないですけど、そんなことは決してありません。大笑いできるような内容ではないけれど、そんなに敷居が高いわけではありません。きっと集中して楽しんでいただける時間になるんじゃないかと」

 女優の仕事は、オファーがなければ成立しない。サーフィンのように、波が来たらすぐに乗るけれど、一度にふたつの波には乗ることはできないのだ。

「台本を読んでやりたいと思っても、タイミングが合わなくてお断りすることもあります。逆に、今回のように難しい題材だとは思っても、スケジュール的に出演が可能なら、逃げたりしたらもったいないですものね」

 映画やドラマで、三谷作品に出演することも多いが、三谷さんとの仕事はいつも、オリエンテーリングをしているような楽しさがあるという。

「『王様のレストラン』というドラマで、初めて三谷さんの作品に出演したんですけど、そのとき、『私、愛人顔だから』っていう台詞があって。それを言ったばかりに、『私は愛人顔なんだ』と思い込んでしまったフシがあります(笑)。それまで、私はどちらかというと正妻の役のほうが多かったと思うんですが、あれから俄然、悪い女のほうが楽しいような気がして(笑)。そんなふうに、私が進んでいく上で、いつも何かしらいいヒントをくださるのが三谷さん。ただ、最初からわかりやすく『あなたはこうです』と断言したりは決してなさらないんです。でもだからこそ、ご褒美のような気がすることもあるし……」

週刊朝日  2013年12月27日号