特定秘密保護法が野党の反対を押し切りとうとう可決、成立した。ジャーナリストの保阪正康氏は、右翼化した自民党の暴挙だとこう危惧する。
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この法律は、平時から戦時へと移行する法体系の一部なんです。憲法改正、集団的自衛権の行使容認、日本版NSCの創設。これらが構成する法体系です。
今までの日本は、もし戦争が起こったら、という枠組みがない、平時の法体系でした。安倍首相は、この法体系そのものを見直しているのです。
日本の戦争は、1945年に終わりました。原爆や無差別爆撃で多くの非戦闘員が戦死しました。しかし戦後は、軍事で復讐しない、問題を戦争で解決しないと選択したんですよ。それを、戦争が終わってから68年間続けている。世界史的な実験と言えるのです。私たちの誇りなのです。自衛隊は一人も殺していないし、殺されてもいない。法体系を変えるという選択は、歴史的に、この実験を疑われることになります。
そういう選択をしないという誇りを日本の保守政党、自民党が守ってきたのです。伊東正義、松村謙三、前尾繁三郎、三木武夫、後藤田正晴……。やりすぎだぞ、とチェックを働かせる代議士がいっぱいいた。戦争を体験した世代です。後藤田などは護憲だって言ってましたから。「あんな戦争はやるべきじゃない」と。そういう人たちが、どれだけ保守政党が右翼化しないためにがんばってきたか。もちろん自民党の中にも右翼はいましたけど、バランスを取っていたのです。それが自民党政権の良さだった。
今は、それがまったくない。党内のバランスがまったく働かない。右翼化した政党になってしまった。
戦前に法体系が変わるときには、治安維持法ができました。これは、もともと共産主義者を取り締まる法律でした。ところが、共産党員は、逮捕されたり、転向したりして、いなくなった。すると、次に自由主義者、今度は宗教家、さらに純正右翼、と対象がいなくなるたびに範囲を広げていった。
なぜ拡大解釈したか。
治安維持法を運用するため、警察機構の中に一つの組織ができた。これが特高警察(特別高等警察部)です。ひとたびできてしまうと、逮捕する対象がいなくなっても組織があるわけだから、仕事を作っていくわけです。一つの法律を運用し始めると、そこにできた組織が、自動的に増殖していくのです。
今度の法律でも、取り締まる部署ができるでしょう。取り締まる連中は、特定秘密を扱うから身元調査される。それは、ある意味でエリート意識を与えられることになる。お前たちは国を守っているんだ、などと言われるでしょう。張り切って、人を捕まえてきて調べて、調書を法律に引っかかるように作っていかなきゃいけない。そのときには、強制、威圧、拷問、脅かし、いろんな手が使われると思うね。かつての特高警察と類似のね。
特高警察のようなものは社会の病理です。特定秘密保護法の成立は、我々の社会にとっては、くしゃみが出るようなもの。ほかにも、教科書に政府見解を入れること。集団的自衛権で自衛隊が地球の裏側まで行くこと。そういうことが重なって、熱が出て、カゼを引く、肺炎になる、というように、徐々に社会の体力が弱まっていく。
そうなれば、民主主義社会の権利が侵害されて、みんな黙ってしまう。権力を怖がる。それが病気、つまり、社会の衰退です。やがて戦時体制に移行するのではないでしょうか。
今すぐ戦争をやるわけではありません。でも、ゆくゆくは、太平洋戦争の前にできた国家総動員法みたいな法律を平気で考え出すのではないかと心配です。今の自民党は、保守政党じゃなくて右翼化した全体主義政党ですから。
※週刊朝日 2013年12月27日号